イベント「ぼくたちの休暇」

ぼくたちの休暇


※他の所に投稿したものを再録します。ネタ切れにあらず。なお記憶に頼って書いているので実際と異なるところがあると思われますので、よろしく。

8/16、そぼ降る雨の土曜日、茅ヶ崎にあるカフェ「BRANDIN」にてイベント「ぼくたちの休暇」がありました。

「BRANDIN」は閑静な住宅街にあるカフェ。受付をすまして入ると、小ぢんまりとした空間に椅子が並べられていました。窓の方をみると、布製(?)のスクリーンがあり、オープニングのDJを務める山下スキルさんとウツボカズラさんらしい方が準備をしていました。
とりあえず前の方が開いていたので座ったら、その後に入室してきた女性の方々が周囲に座り、男性陣はというと後ろへ大人しく下がって座っています。ちょっと焦りましたがまあいいや、と開き直って、始まったDJプレイに耳傾けていました。波の音を効果的にSEに使い、ちょっとトロピカルでラウンジな選曲で早くもリラックス。
そしてこの日出演する渚さんとかしぶちさんにちなんでドノヴァン「サンシャイン・スーパーマン」「天国の愛につつまれて」(後で渚さんとかしぶちさんがドノヴァンかけてくれてありがとう、と言ってました)、マンフレッド・マン「マイ・ネーム・イズ・ジャック」が流れたときはひとりにんまりしてました。

ふと気がつくと、マイクを持った男性2人が会場のお客さんに何やらインタビューらしきものをしています。私の方にもやってきました。なんだなんだ?「えー、今日演奏するサタデー・イヴニング・ポストですが、後で演奏に使いますので、今まで旅行して一番楽しかったところを教えてください」
突然の質問にちょっとびっくりしましたが、とりあえず私の数少ない海外体験から「シアトルですね」と答えました。
「はい、録音できましたー。ありがとうございます」

その後彼等は数人に同じ質問をした後、ステージ奥のPCに向かい、波形編集らしきことをやっていました。やがてDJタイムも終了。その他のメンバーもやってきてセッティングを始めます。

さて、セッティングも完了しメンバーもそろって、この日の一番手サタデー・イヴニング・ポストのライヴのスタートです。いきなり全員両手をあげて立ち上がり、なにやら聞き覚えのある、のどかな歌を歌いだしました。ビーチ・ボーイズ「Be Here In The Morning」!
1968年に発表されたアルバム『フレンズ』に収録のちょっとファニーなナンバー。サタデー・イヴニング・ポストの面々は手旗信号のような奇妙な振り付けでこの曲を歌い終えました。
個人的にはこれで「つかみはOK」でしたね。このころのビーチ・ボーイズを好きな人に悪い人はいません。

やがてスクリーンに映像が映し出され、演奏と微妙にシンクロしながらステージは進行していきました。どこかユーモラスな電子音とふわふわしたコーラス、クラシック・ギターマンドリン等による繊細なアンサンブルによるフォークトロニカです。彼等は現在1stアルバム録音中ということでこちらも楽しみ。

やがてヴォーカル担当のキュートな女の子がマイクをステージの彼等から離れたところに置きました。そしてウクレレやベルなどを周りにおいて「次の曲では、みなさんにも参加してもらいます。このマイクの前で思いついた音をなんでもいいので出してください。どんな音でも大丈夫です」とナレーションをして「沈める寺」という曲の演奏がスタート。大きなうねりをもつフレーズがループしていくなか、観客がひとりひとりマイクの前に立って声を出したり、手拍子したり。その音がすぐ取り込まれてぐるぐるループしながら
重なっていくという趣向の曲。他のメンバーは随時そこにギターやマンドリンのフレーズを即興的に挟み込んでいきました。
やがて私の番になりました。ウクレレでちょっとアヴァンギャルド(笑)なソロをとらせていただきましたよ。
やがて回転する巨大な音の壁が会場を包み込んだところでエンディング。続いて最後の曲へ。いよいよ演奏前のコメントを使用した曲の登場です。とはいってもかなり加工されていて、どこで使われたのか良くわからなかったのですが。
こうして不思議なユーモアに満ちたサタデー・イヴニング・ポストのステージが終了したのでした。

さて続いては渚十吾のステージ。ムーンライダーズ・ファンには、『最後の晩餐』で協力していたり、岡田徹さんのソロ・アルバムに参加していることでなじみが深い方。
ソロ・ミュージシャンとしても5枚のアルバムを出し、またいくつかの著作もある、柔らかでハートウオーミングな独自の世界を築かれている方です。

機材のセッティング中に渚さんはなにやら荷物を持って、私の前に座っている女の子のところへやってきました。
「えっと。これオルゴールなんだけれど、ここを回すと鳴るから、ぼくが合図したら鳴らしてね」
後ろの方の人にも渡して「前の人が鳴らす音が聴こえたら鳴らしてください」と言い残し、ピアノへ向かいます。
やわらかなピアノのイントロが数小節続いた後、首を伸ばして目線で合図。オルゴールのかそけき響きがピアノに包まれて、渚さんの世界がスタートしました。

つぶやくように歌う渚さんの声は彼が生み出す牧歌的なメロディーによくあいます。時々シーケンサーをつかってスペイシーな世界を展開したり、細かなノイズが入ったCDをかけてそれに乗せてギターの弾き語りを披露したりと変化に富んだ構成で飽きさせません。
ピークは大作「西瓜糖組曲」。リチャード・ブローディガンの著作「西瓜糖の日々」にインスパイアされたというこの曲。演奏前、観客全員に「すいかキャンディー」と渚さんによるテキストが配布されるサービスぶりでした。後半、シーケンス・フレーズがループされるなか、今度はおもちゃの鉄琴が観客にわたされ、「好きにソロをとってください」と、ここでも観客参加の場面がありました。
最後は「神のみそしる」というユーモラスな曲で幕。よい意味でメルヘンチックな心温まる音楽でした。
さあ、いよいよメインのかしぶち哲郎の登場です。

個性派ぞろいのムーンライダーズにあって、かしぶち哲郎は耽美的な作風でいくつもの名曲を残してきました。
ソロのライブを体験するのは初めてです。かしぶちさんはギターを持って気軽に登場。マイク・テストで「業務連絡。お水ください」と言って笑いをとっていました。セッティングが進む中、ギターをぽろぽろと爪弾いて、なんと「ああ〜、こうもりが飛ぶよ〜♪」と、<はちみつぱい>時代の名曲「こうもりが飛ぶころ」を歌いだすではありませんか。もっとも「誰も知らないよな〜」とすぐに止めてしまったのですが。

さて、拍手につつまれておもむろにスタート。シンプルに弾き語りで勝負でした。1曲目はライダーズ・ナンバー。『マニア・マニエラ』収録の「気球と通信」でした。私の後ろの方もライダーズ・ファンだったのでしょう。うれしそうにずっと一緒に口ずさんでいました。その後はソロ・ナンバーに交え、イヴや石川セリへの提供曲のセルフ・カバーなどを次々と披露。甘い歌声と楽曲の力で、シンプルな演奏にもかかわらず、すっかり会場をかしぶち色にそめてしまいました。
中盤以降はややリラックス・ムード。「今日は曲順決めてないんですよ」と楽譜をめくって「じゃ、フランスの曲いきます」と歌いだしたり。そしてギターを置いてピアノに向かいました。甘いチューニングに「あれあれ?」といいながらも弾き始めたのですが、途中で高音部のキーを叩きながら「音が出ない〜」。そう、古いピアノなので、時々音が出なくなるのです。
そこにすっと登場したのは渚さん。トラブルが思いもがけず、2人の連弾という嬉しい場面を演出しました。その後、
かしぶち「じゃあ、そろそろ2人でやりましょうか」
渚「いいですよ。ドノヴァンやりましょう。ドノヴァン」
事前にかしぶちさんが送ったメールを渚さんが全然読んでこなくて、ほぼぶっつけで2人でやるようになったことをユーモラスに話した後で、ドノヴァン「カラーズ」
「ラレーニア」を渚さん中心で歌いました。

渚「今度はかしぶちさん、歌ってくださいよ」
かしぶち「そうだね〜。(楽譜をめくりながら)ライダーズの曲にしようか。
これ出来る?Hな曲なんだよね」
渚「やるならついて行きますよ」
かしぶち「こういうのを渚さんに歌って欲しいんだけど(笑)」
渚「いや、そういう世界はちょっと苦手で・・・(笑)」
かしぶち「あえぎ声だけでも(笑)」
と、こんな感じのやりとりの後おもむろに始まったのは『アマチュア・アカデミー』に収録の名曲「S.E.X」でした。
歌い終わったら渚さんがボソっと「しかしまあ、やらしい歌詞だね〜」

こんな調子で2人でやってたら、永遠にできるね、なんていいつつ、いよいよラスト・ナンバーです。
例によって楽譜をめくりながら、
渚「やっぱり今日は最初が(サタデー・イヴニング・ポストによる)ビーチ・ボーイズだったから、
最後もビーチ・ボーイズで・・・転調の嵐だけど、これやりますか?」
かしぶちさんがキーを確認した後、奏でられたのは、なんと「Till I Die」。
夏だからビーチ・ボーイズとはいえ、全然サーフ・サウンドじゃない曲を選ぶところが、彼等らしいです。
「嵐のような転調」に苦戦しながらも歌い終えた後、渚さんが歌詞を簡単に解説。かしぶちさんは
「しかし、よくこんな難しい曲書くねえ」とコメント。
そしてお互いに「でもいい曲だよね〜」「いいよね」とうなづきあってステージは終了しました。

この後DJタイムとなったのですが、私はここで帰宅。小規模の会場ならではの、ステージと観客が一体となった、ほのぼのとした楽しいイベントでした。