松平敬『MONO=POLI』

MONO=POLI (モノ=ポリ)

MONO=POLI (モノ=ポリ)

最近ではクラシック/現代音楽系のアルバムでもコンセプチュアルなつくりのものが増えてきましたが、それでもここまで凝った作品は無かったように思います。2〜16声部の声楽アンサンブルの楽曲を集めたバリトン歌手・松平敬のアルバムは、自分の声だけを多重録音してつくりあげた、文字通りの“ソロ・アルバム”となっています。女声パートはファルセットを駆使し、さらにそれぞれの楽曲にふさわしい質感を出すため、残響処理なども自分の手でこだわって組み上げたというこだわりぶりは、日本におけるワンマン・アカペラ・コーラスの王者、山下達郎を彷彿とさせずにはいられません。
その手法のみならずアルバム構成にも工夫が凝らされていまず。音楽形式のテーマとしてカノンを据え、最終曲のマショー「我が終わりは我が始め」の楽曲構造である逆行カノンを収録曲の配列に応用しているのです。すなわちアルバム前半は13世紀に作曲された作者不詳「夏は来たりぬ」で始まり、以降ダンスタブル、ジェズアルド、J.S.バッハ、、モーツァルト・・・とどんどん時代が新しくなり、ケージ「昔話」、リゲティ「ルクス・エテルナ」、そして松平自身が手がけた「モノ=ポリ」を頂点に後半はベリオ、ケージ、シェーンベルクドビュッシーと時代が戻っていき、マシューに辿り着いてこの音楽の旅は終わるのです。
収録曲はどれも興味深いものですが、ワンマン・コーラスによる声の均質性が活かされた例をいくつか挙げると、まずはJ.S.バッハ「8声のカノン」が挙げられます。松平自身が解説で書いているのですが、“ドレミファソファミレ”のシンプルこのうえないフレーズの反復から、まるで後年のスティーヴ・ライヒを思わせる響きが立ち上がってくることに驚かされます。バッハはミニマル・ミュージックの先駆者でもあったのですね!もうひとつはリゲティ「ルクス・エテルナ」。映画「2001年宇宙の旅」で使用されたことでポピュラーになった、この16声部の“ミクロ・ポリフォニー”がここまで純化された透明な響きで歌われた例を他に知りません。人間の声の可能性の拡がりを感じさせてくれる、聴き応えのあるアルバムです。

MONO=POLI - Choir Symphony by Solo Singer

本作のコンセプトをわかりやすくヴィジュアル化したPV。