トニー・バンクス『SEVEN: A Suite for Orchestra』

Seven: Suite for Orchestra

Seven: Suite for Orchestra

ジェネシスといえば、どうしてもピーター・ゲイブリエルフィル・コリンズといった強い個性を持ったヴォーカリストの存在をまず思い浮かべてしまいがちですが、ジェネシスの音楽のジェネシスらしさを深いところで担っていたのは、キーボードのトニー・バンクスではないでしょうか。今回取り上げたのは、そのバンクスによるオーケストラ組曲で、ナクソスからリリースされました。演奏はマイク・ディクソン指揮/ロンドン・フィルハーモニック・オーケストラによるもので、バンクス自身もピアノで演奏に参加しています。
オーケストラのための曲を書きたい、というアイディアは80年代初期からあったらしく、その後映画音楽などを手がけていくなかで構想を育んでいったようです。オーケストレイションにサイモン・ヘイルの協力を仰いではいますが、完成した音楽はバンクスならではの抒情的な作品となりました。タイトルが示すとおり7曲からなる組曲で、それぞれ「Spring Tide」「Black Down」「The Gateway」「The Rain」「Earthlight」「Neap Tide」「The Sprit on Gravity」と題されています。白眉は冒頭の「Spring Tide」。冒頭の響きが聴く人をファンタジックな世界に誘い、牧歌的で伸びやかな旋律をたっぷりと味わうことができます。オーケストラ作品ではあるものの、変にクラシックを意識せず、自分の楽想を展開することに専念したことが吉と出ました。いわゆる“現代音楽”的な響きや試みを期待すると保守的な音楽に聴こえてしまうかもしれませんが、ヴォーン・ウィリアムスやディーリアスなど、イギリスのクラシック音楽の雰囲気が好きならば充分受け入れることができる世界だと思います。