12/2 Sidsel Endresen & 八木美知依@公園通りクラシックス 

レポを書くのが遅くなりましたが、印象深いライブでした。シッツェル・アンドレセンはECMJAZZLANDからアルバムを発表しているヴォーカリストですが、近年は普通の歌から脱却して自由なヴォーカル・インプロヴィゼーションを展開しています。かたや八木美知依もいわゆる邦楽の枠を越えて、自由な即興演奏で数々の音楽家とわたりあってきた、日本屈指の箏奏者。この2人が完全即興でぶつかりあう、ということで激しいインタープレイ、フリーキーな展開となることを予想しながら開演を待ったのですが、いざ実際に聴こえてきた音は、完全即興であることが信じられないくらい構成的な音楽。互いの世界観を尊重しながらも、共鳴しあい、スケールの大きな音世界が繰り広げられていったのでした。
ステージは2部構成。第1部はシッツェルのヴォーカルから入り、すぐに八木が深い低弦の響きでゆったりとしたうねりを創りだしていきました。八木の演奏を生で接するのは数年ぶりでしたが、所々音色を変調させていたりするなど、表現の幅が更に深まった印象です。八木が生み出すそれこそ多彩な糸でつむがれたような音のキャンバスに、シッツェルは呼気の音や子音の響きを多用したり、倍音を豊かに響かせるハミングを聴かせたりと、様々な音の絵を描いていきました。一貫して大きなうねりの中で両者の交感が進み、再び冒頭の低弦の響きが戻ってきて終了。プログレもかくやと思わせる大作の組曲を聴いたような気分になりました。
休憩中はこの日のために上京してきたid:hibikyさんと、この演奏はいったいどこまで即興で、どこまで打ち合わせしていたのだろうかと論議。このときはまさか完全即興とは2人とも知らなかったんですね。それほどまでに見事な構成美を聴かせてくれた演奏だったのです。
第2部は、シッツェルのなんともいえない美しいメロディーの歌唱からスタートしました。その凛としながらもどこか哀愁のある歌声、トラッドを思わせるメロディー。これはまるでサンディ・デニーじゃないか!と興奮せずにいられない見事な「歌」。これもまさか完全即興だったとは・・・。短い演奏が数曲続いた後、特別ゲストとして前夜にシッツェルと共演したばかりのサックス奏者、ホーコン・コルンスタが登場し、トリオでの演奏になりました。トリオになっても極端にフリーキーな演奏になった訳ではないのですが、そこがかえって3人のもつポテンシャル、エネルギーを感じさせたのがさすがです。予定調和に陥るのを避けながら、高次元で融けあった3者の音色のえもいわれぬ美しさに陶然となりました。楽理的な部分を超えたところで成立したハーモニーがそこには確かに響いていたのです。
会場には鈴木慶一巻上公一の顔も見えました。なかでも鈴木慶一はツイートによるとこの晩、ホーン・コルンスタとシッツェルを招いてレコーディングをしたらしく、その行動力に感服しました。まさか北欧フリー・ジャズムーンライダーズ界隈に接点ができるとはなあ。即興演奏のライブを観るのは久しぶりでしたが、コクのある音楽を堪能した一夜でした。