11/21 De La FANTASIA 2010「ポップ・レジェンド」@Studio Coast

ヴァン・ダイク・パークスが来日、新作を制作中の細野晴臣も参加とまさに「ポップ・レジェンド」のタイトルにふさわしいイベント「De La FANTASIA 2010」。この2人以外にも多彩なミュージシャンが多数参加し、6時間の長丁場でしたが、最後まで興味深く観ることができました。
最初に登場したのは高木正勝。現在ピアノ・ソロ・ツアー“YMENE”を展開中ということで、そのコンセプトに則ったライブでした。ピアノ・ソロということで漠然と坂本龍一みたいな感じになるのかなあと予想していたのですが、実際は様々な電子音も加えられていたので、一安心。高木自身による映像と音楽とのコラボレーションで、想像以上にエモーショナルな音楽でした。エモーショナルといっても外に向かう激しさではなく、自身の内面にあるアニマなどの神話的元型を掘り下げて表現したという印象。9人のミュージシャンと組んだ「Tai Rei Tei Rio」でも神話的世界に接近していましたが、そのコンセプトを引き継ぎ、内面化したといったところでしょうか。できればもっと落ち着いた環境で見たかったですね。
メインステージがセットチェンジ中はロビーのサブステージでNgatariのミニライブがありました。女性ヴォーカルとピアノのユニットで、ドラムスを加えた演奏。ちょっとビョークを思わせる独特のヴォーカル、ピアノとドラムのからみもありきたりなリズム・キープではなくてかなり工夫を凝らしたアレンジです。個性という点では申し分なし。にもかかわらず、初聴きの耳にはどの曲も同じ印象に感じてしまったのが残念でしたね。
メインステージに戻るとちょうどトクマルシューゴがスタート。新作『PORT ENTROPY』は持っていることは持っていて、悪くはないのですが、何度も聴きかえす程でも・・・だったので、あまり期待はしていなかったのです。けれども、これはうれしい裏切りでした。アコースティック・スイングとトイ・ポップスがごっちゃになったような、カラフルで、キュートでポップなステージ。MCではかなり緊張した様子でしたが、出てくる音は生き生きと弾んでいてごきげんでした。こういうことがあるからライブは面白い。
続いてサブステージでアコーディオンとギターのユニット、Small Color。冒頭でドローンっぽいことをやっていたのですが・・・、ごめんなさい。この日の私にはあわないサウンドでした。
メインに戻って高橋幸宏と宮内優里、高野寛権藤知彦によるTYTYTの登場。メンバーの4分の3が、幸宏の言葉を借りると「PUPAから派遣されてきた」ユニットw。実際、演奏が始まってしばらくは、「気持ちよいことは気持ちよいけど、PUPAとどこが違うの?」と思っていました(^^;)。曲が進むにつれて、少しずつこのユニットならではの音が出てきたかな・・・というところで終了。高野寛のギターと権藤知彦ユーフォニウムのアンサンブルが心地よくて楽しめたのですが、もっと独自の色を見せて欲しかったという思いも正直残りました。ただ、露骨に個性を主張するのは幸宏さんの美学に反しますよね。今後に期待です。
サブステージ3番目は密かに楽しみにしていたPredawn。前に渋谷HMVのインストアライブに行ったときはほとんど姿が見えなかったので、今回は正面で全身を拝見しました(^^;)。ギターの弾き語りで英詞を歌うというシンプルこのうえない音楽なのですが、穏やかさの中にも随所にキラメキを感じるのです。細野晴臣の開始が迫っていたので、途中で抜け出さざるを得なかったのが残念。でも大好きな「Suddenly」を聴くことができてよかったです。
さあ、細野晴臣のステージ。ソロ・アルバム制作の合い間をぬって参加してくれた今回は、鈴木茂, 高田漣, 伊賀航, 伊藤大地による“細野晴臣Group”として登場。細野の歌がたっぷり聴けたのはもちろん、鈴木茂のギターが全面的に活躍していたのがとにかくうれしかったです。うなりをあげるスライド・ギター、まろやかな音色で、どこまでも伸びていくような滑らかなフレージングで奏でられたソロ、軽やかなカッティングと名演連発でした。音楽的には、アメリカ南部サウンド色がやや濃い中に、細野ならではのトロピカル風味が隠し味のように効いているコクのある音楽。サミュエル・フラーの「東京暗黒街」がモチーフになっているという冒頭の曲には、それに加えてどこか和テイストも感じられて新鮮でしたね。ノラ・ジョーンズもカヴァーしたプレスリーナンバーや、新曲もいくつか披露してくれたりと盛りだくさんな内容でした。細野曰く「カリプソシャンソン」の新曲が特に興味深かったです。新作がますます楽しみになってきました。
クレア&リーズンズはとにかくクレア・マルダーのコケティッシュなヴォーカルの魅力にメロメロになりました(^^;)。いやいや、ヴァイオリンとチェロによる室内楽的な音に、やや控えめながらもエレクトロニクスも加わったサウンドで、ちょっとノスタルジックなメロディーをもつ曲をやる、という音楽自体も面白かったですよ。途中みんなでカズーを吹いたりする場面もあったりするなど、お茶目な感覚も持ち合わせているところが素敵でした。コーラスもなかなか良かったな。21世紀のバーパンク・サウンドとは彼らの音楽のことを指すのかもしれません。
そしてそのバーパンク・サウンドの総元締め(^^;)、メインのヴァン・ダイク・パークスが満を持して登場しました!ステージ中央にグランド・ピアノが据えられ、その横にはランプシェイドが据えられています。クレア&リーズンズのクレアを除いたメンバーがヴァイオリン、チェロ、ベースをもってサポート。いよいよ現れたマエストロは最初から元気いっぱいでした。まずは『ジャンプ!』の曲を3連発。初めのうちこそ、オリジナルと比較してサウンドの薄さが気になったり、思いっきりためて歌うヴォーカル・スタイルに「あれ、歌詞忘れちゃった!?」とヒヤヒヤさせられましたが(^^;)、気がつくとすっかり夢中になっている自分がいました。力強いタッチで弾かれるピアノとヴァイオリン、チェロとのアンサンブルを聴いていると、頭の中で勝手にオーケストラが轟々と鳴りだすんですよ(^^;)。選曲も限られた時間の中、『ソング・サイクル』から『東京ローズ』に至るほぼ全てのソロ・アルバムから選ばれた名曲がずらり。これだけでも充分なのに、ブライアン・ウィルソンとの共作『オレンジ・クレイト・アート』から表題曲を含めて3曲、さらにはクレア・マルダーとデュオで「英雄と悪漢」のカヴァー!改めてブライアンとの絆の深さを感じさせて感無量になりましたよ。そしてアンコール・ナンバーはマエストロのピアノ弾き語りで『ソング・サイクル』収録の名曲「ジ・オール・ゴールデン」。まさに夢のような時間でした。少し期待していた細野との共演はありませんでしたが、きっと細野さんもこの日は一観客としてヴァン・ダイク・パークスのマジックに浸っていたのではないでしょうか。長丁場の疲れを吹き飛ばす、素晴らしいステージでした。