青柳いづみこ「水のまなざし」・奥泉光「シューマンの指」

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

ピアニストが主人公の小説を続けて読んだのでまとめて取り上げます。
「水のまなざし」はピアニスト、エッセイストとして知られる著者の初めての小説。声帯を痛めた、プロのピアニストを目指す少女が主人公で、声を失うのが声楽志望の人物ではないところが趣向です。ピアノのレッスンの描写はさすがに具体性があって読ませますが、一方でクラリネットオーボエを完全に取り違えていたりしているのが不思議(わざととはとても思えません)。全体としては独特の雰囲気をもつ少女小説といったところでしょうか。満ち足りたようでもあり、物足りないようでもあるという不思議な読後感でした。
一方、奥泉光の「シューマンの指」は一気呵成に読めました。これは文句なく面白いです。ミステリ仕立てなので、あまりストーリーを詳しく述べることができないのですが、特異な個性を持つ若き天才ピアニスト、という俗っぽい設定を用いながら、シューマンの音楽への興味深い考察や、巧みな語り口で読者をぐいぐい引っ張っていく手腕が見事です。最後には何重ものどんでん返しを用意しているのですが、そこにはミステリだけではなく、現代文学の主要なテーマもしっかり反映させているのがさすが。