鈴木大介『大聖堂/追憶のショーロ バリオス名曲集I』

大聖堂/追憶のショーロ バリオス名曲集I

大聖堂/追憶のショーロ バリオス名曲集I

かつて武満徹に「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評されたことがある鈴木大介は、鬼怒無月とのデュオや、映画音楽作品集「キネマ楽園」シリーズなど、クラシックに留まらない多彩な活動を展開してきたギタリストですが、今回の新作はクラシック・ギターの本道ともいえるバリオス作品集となりました。かつて90年代にCD3枚のバリオス作品集をリリースしていた鈴木ですが、バリオス生誕125周年のメモリアル・イヤーの今年、鈴木自らが校訂を手がけた楽譜集を出版したこともあり、ここに再録音の第1弾が届けられたのです。
ここで鈴木は最新の楽譜だけではなく、ギターに1964年製の名器、イグナシオ・フレタを使用して録音に臨みました。クラシック・ギターにはあまり通じていない私ですが、それでもこのアルバムで聴くことのできるギターの音色が、これまでの彼のアルバムとはかなり異なるものであることはわかります。華やかすぎず、渋すぎない、実に味わいのある音色で奏でられるバリオスの楽曲群は、時にバッハを思わせ、また時にはショパンを連想させる多彩な表情をみせてくれます。弦や楽器本体の鳴りや空気感が身近に感じられる優秀な録音も特筆すべきでしょう。わずかばかりではありますが、私の持っているクラシック・ギターのアルバムの中でも特別な1枚になりそうです。