坂本真綾『坂本真綾15周年記念ライブ“Gift”at日本武道館』

日本音楽DVD大賞、なんてものがあるとしたら今年の大賞はこれで決まりでしょう。坂本真綾の音楽活動15周年を記念して、彼女の誕生日である3月31日に武道館で行われたライブを収録したものですが、想像以上の素晴らしい内容でした。昨日id:kobbanovaさんとショック太郎さん(id:bluemarble)と一緒に新宿パセラで鑑賞したのですが、そのクオリティの高さにお二人とも絶賛の嵐でした。


まずなんといっても主役である坂本真綾の歌唱の魅力を第1にあげねばなりますまい。以前はライブではどこかひ弱な印象を与える場面もあったのですが、今回は全編にわたって力強い歌を聴かせてくれています。もちろん彼女のヴォーカルの大きな魅力である透明感は損なわれておりません。ヴォーカルの成長は特に「Feel Myself」や「ユッカ」といった初期の楽曲を歌う際に顕著でした。また、よくこんなたいへんな曲ライブで歌うなあと思わせる「ヘミソフィア」のような難曲でも歌い出しから聴く人の心とぎゅっと捉えて放しません。凛々しいヴォーカリストとしての坂本真綾がここには確かに存在しているのです。

そんな主役を支える演奏陣がまた素晴らしい。菅野よう子楽曲の複雑なリズムを涼しい顔でこなしてしまう強靭無比なリズム隊。歌心あるソロをたっぷりと聴かせてくれたギター。サウンドに広がりと奥行きをもたした弦楽四重奏。どれをとっても語りたいことはたくさんあるのですが、特筆すべきはコーラス隊です。たった二人とは思えない厚みのあるハーモニーで、ブルガリアン・ヴォイスからブラコン風に至るまで多彩なコーラス・ワークを自由自在に披露していくすごさに、我々3人ともただ唸るばかりでした。

ここまで強力な歌手と演奏陣が揃っていれば、ことさらに余計なギミックをしかけなくても音楽それ自身の力で聴衆をぐいぐい引っ張っていくことが可能です。もちろん数度に及ぶ衣装換えやせり上がりで登場、といった演出もありましたけど、もっと派手に客席を煽ったりすることもできたはず。しかし、この日はギミックは必要最小限に抑えて、あくまで音楽で勝負していました。最初の衣装換えの場面が象徴的にそのことを表していました。いったんステージから退いた真綾が再び登場するまでの間、場をつないでいたのはなんとドラムス、佐野康夫の超絶ドラム・ソロ。これはまるでウンベルティポじゃないか、と感嘆していると続いてパーカッションの三沢泉がソロを引き継ぎます。こちらは佐野の“動”に対して“静”のパフォーマンスでほとんど富樫雅彦の世界。ここからどうなるのか、と固唾をのんで見守っているとエスニックなコーラスが響き渡り、客席がどよめく。そしていよいよ主役、坂本真綾が登場して名曲「奇跡の海」へ!いやはや、この流れは完全にプログレとしかいいようがありません。

普通にこのバッキングでずっとやってても名演ですが、これに加えて更にスペシャル・ゲストが参加してくるのですからたまりません。まずはもちろん菅野よう子矢野顕子を思わせるノリで楽しそうにピアノを弾く菅野と真綾の二人だけの世界で「指輪」や「アルカロイド」などをメドレーで歌っていきます。チロルチョコのCMソングのような意外性のある曲も飛び出した、心和む時間でした。
続いてはアンコールで登場した鈴木祥子。「風街ジェット」と「マジックナンバー」の2曲で佐野康夫とのツイン・ドラムという嘘みたいな取り合わせが実現。高校教師みたいなちょっとカチッとした衣装から受けるイメージからはほど遠いパワフルなパフォーマンスはカッコよかったです!

あっという間に時は過ぎ、初の自作曲「everywhere」を経て定番の「ポケットを空にして」で大団円。坂本を先頭にアコーディオンを抱えた菅野よう子とタンバリンを持った鈴木祥子、そしてコーラス隊が「まるでブレーメンの音楽隊」(byショック太郎さん)のようにステージを練り歩く。これもまた、もう二度と見られないかもしれないレアで貴重な光景ですよね。最後まで声優だとかアイドルなどの枠にはとうてい収まりきれない、ハイ・クオリティなライブでした。これに匹敵するライブが出来るのは他にどれくらいいるのだろう!?と思わせてしまうくらい充実した内容で大満足です。

坂本真綾LIVE "Gift" at 日本武道館ダイジェスト