ジミー・スコット『ドリーム』

ドリーム

ドリーム

一人暮らしをしていたころ、深夜にジミー・スコットの歌声に耳を傾けることがよくありました。スタンダード・ナンバーはもちろんのこと、ジョン・レノンやプリンスなどのポップスのカヴァーでも、ぐっとテンポを落としたスタイルで特異なハイ・トーン・ヴォイスによって歌われると、作曲者にも思いもよらなかったエモーションが曲から引き出されていくような、そんな気がしたものです。
この『ドリーム』は復活作となった『オール・ザ・ウェイ』に続くアルバム。『オール・ザ・ウェイ』はトミー・リピューマのプロデュースにより、ストリングスも加わった、洗練されたサウンドが特徴でしたが、こちらはぐっとシンプルにスモール・コンボ編成によるもの。プロデュースはミッチェル・フルームで録音とミキシングがチャド・ブレイクという、当時最も勢いのあったコンビが手がけています。ロックのプロデュースでは独特の音の汚し方が特徴的なこのコンビですが、ここではトリッキーな要素は皆無。シンプルな編成による空間の中で、いかにジミーの声を活かすかという点に専念しています。その結果、みかけは地味ながらも繰り返し聴くたびに良さがしみこんでくるアルバムとなりました。ジミーの歌はもちろんですが、数曲に参加しているミルト・ジャクソンヴィブラフォンが実にいい味を出しています。フィルム・ノワール的なジャケットも含めて、深夜に一人で聴くのがふさわしい音楽。