7/19 結成四十周年記念!!山下洋輔トリオ復活祭@日比谷野外音楽堂

前にも書いたことがありますが、私がジャズを面白いと思えるようになったのは70年代山下洋輔トリオの演奏に接してからです。スリリングなインタープレイはもちろん、ジャズにもユーモアがあること、バンド・サウンドと呼べるものがあることを彼らの演奏によって初めて実感することができたのです。だから、山下洋輔トリオは私にとってマイルス・デイヴィスセロニアス・モンクチャールズ・ミンガスetcといったジャズ・ジャイアンツよりもはるかに大きい存在なのですね。しかし、私が彼らの演奏を知ったときには既にグループは解散。山下をはじめとするメンバーはそれぞれ独自の活動を行っていたので、アルバムを通してしか彼らの音楽に接することができなかったのです。いくら山下が「ジャズとビールは生に限る」といっても肝心のグループが存在していないのですからどうしようもありません。山下のライヴにはその後ソロやパンジャ・オーケストラ、NYトリオなどで何回か接しましたが、やはり一番聴きたかったのは70年代トリオ。だから歴代メンバーが総出演するという今日のライヴには胸の高鳴りを抑え切れませんでした。

前日体調を崩してしまったので、ピーカンの天気だったらキツイなと思っていたのですが、幸いにもうす曇。会場に到着したらセミの音とそよ風が心地よく、これはなんとか乗り切れそうだと一安心。定刻の17:00になり、司会の相倉久人が登場。ライヴの幕が切って落とされました。構成は時代の新しい順から過去に遡っていくという形式です。
まず最初に登場したのはトリオ第四期。山下・林栄一・小山彰太で林の曲を2曲演奏(「回想」「ストロベリー・チューン」)。林の演奏を生で聴くのは初めてですが、ほどよい渋みのある音色でカッコよかったです。小山のドラムスもアルバムよりも重量感があって良い。早くも今後の展開に期待がもてる演奏でした。続いて故・武田和命の代打として起用された菊地成孔が加わって、小山作曲の「円周率」。3.141592・・・に音階をつけたという怪作です。そして沖縄出身のベース・国仲勝男が彼自身が制作したとおぼしき六弦ベースで加わり、武田の名バラード「ジェントル・ノヴェンバー」を演奏しました。冒頭の国仲のソロはやや浮いていた感もありますが、ときおりかいまみえる沖縄音階がユニークでしたね。そして本編は林が退き、菊地のテナーをたっぷりと聴かせました。中間部で激しくなる瞬間もありましたが、全体的にはビタースイートなフレージングで曲の良さを充分に引き出していました。時に繊細、時に激しい小山のバッキングも見事。

続いて第三期トリオ。山下・小山・坂田明です。坂田の登場に盛り上がる客席。どよめきが残る中、無伴奏の山下ソロがスタート。おお、このエキゾチックな響きは「バンスリカーナ」に間違いない!果たしてあのインド風メロディーが3人で奏でられ喝采が起こります。ただ、ちょっと坂田の音色が普段に比べて迫力がないかも?しかしそれを補って余りある山下と小山のインタープレイにたちまち引き込まれてしまいました。そしてアルバート・アイラーのカヴァー「ゴースト」。名盤「モントルーアフターグロウ」での名演が脳裏をよぎるなか、坂田が朗々と「赤とんぼ」のフレーズを吹き上げる。ならば、きっとアレも出るに違いない、と客席の期待が高まる中、マイクを手に取る坂田。どよめく観衆。そして“ハナモゲラ歌唱”がキター!!(個人的に)伝説となっている「コネコ・コネコ・ネコノコ・オコゼノコー」が生で聴けて大満足。これだけでも今日来た甲斐があったと感激でした。

15分間の休憩と相倉、菊地のトークを挟んで小雨のぱらつく中第二部スタート。第二期トリオの登場です。山下・坂田、そして森山威男だ!いきなり名曲「クレイ」でスタート・・・あれ、テーマ部のアンサンブルがわずかだけど乱れた。やはり坂田の調子がちょっと悪いのか?・・・といった心配をあっというまに吹き飛ばしてくれたのが森山・山下の力演。アート・ブレイキージョン・ボーナムが一体化したような森山のドラムの迫力。それに呼応してゲンコツ、肘打ちを多用する山下とのやり取りはほとんど格闘技。これに刺激を受けて坂田も調子を取り戻す。2曲目の「キアズマ」は3人一体となって盛り上がった快演でした。森山のタムの連打に歓声が巻き起こる。おりしも雨の上がった空に二重の虹がかかり、天もこの演奏を祝福しているかのようでした。

さあ、ついに中村誠一の登場。40年の時を遡り、伝説の出発点となった第一期トリオ、山下・森山・中村誠一の揃いぶみです。まずは「木喰」。中村の美しいソプラノ・サックスの音色が野音の夜空に溶け込んでゆきます。そしてテナーに持ち替えて「ミナのセカンド・テーマ」。コルトレーン的なストイシズムと日本的な情緒が渾然一体となった、言葉に尽くせない名演だったのですが、私の席の後方で喧嘩を始めた客がいました。なんて不粋な奴。しかし演奏の見事さが不快な感情を洗い流してくれました。

アンコールは歴代メンバー総出演で「グガン」。林vs坂田のアルトバトル、菊地vs中村のテナー・バトル、そして小山vs森山のドラム・バトルで最後の最後まで盛り上げてくれました。17時に始まって終演が19時15分頃。やろうと思えば後1時間はやれたかもしれませんが、長いソロやバトルをあえて封印し、コンパクトな時間の中全力疾走する、というスタイルで凝縮した密度の濃い演奏を繰り広げてくれたので、「もっと聴きたかった!」とは思っても物足りないとは思いませんでした。やはり70年代山下トリオは最強です。この日の模様はフジTVでも後日放映するそうなので、ぜひ皆さんに見てもらいたいです。あ、そうそう。会場では40周年限定版のCD+DVDが販売されていました。さっきDVDだけ見たのですが、これが凄まじい名演でついつい繰り返してみてしまいましたよ。1976年のモントルー・フェスティヴァル出演時の演奏で、「モントルーアフターグロウ」に入らなかった「クレイ」と「ミナのセカンド・テーマ」が収録されているのですが、「よくぞ発掘してくれました!」と叫びたくなりましたよ(^^;)。山下ファンはぜひ、こちらも見てください。

<セット・リスト>

1.回想 (山下・林・小山)
2.ストロベリー・チューン (山下・林・小山)
3.円周率 (山下・林・小山・菊地)
4.ジェントル・ノヴェンバー (山下・小山・菊地・国仲)
5.バンスリカーナ (山下・坂田・小山)
6.ゴースト (山下・坂田・小山)
〜休憩〜相倉と菊地のトーク
7.クレイ (山下・坂田・森山)
8.キアズマ(山下・坂田・森山)
9.木喰 (山下・中村・森山)
10.ミナのセカンド・テーマ(山下・中村・森山)
〜アンコール〜
11.グガン(全員)