ウタケミツ・セレクト

武満徹の<うた>を集めたセレクトです。戦時下に聴いたリュシエンヌ・ボワイエの歌うシャンソン「聴かせてよ、愛のことばを」*1に衝撃を受けたとか、アメリカ留学時にデューク・エリントンへ師事することを希望したというエピソードが残っているように、武満は終生ポップスへの愛情を隠そうとはしていませんでした。その愛情を例えば「弦楽のためのレクイエム」や「ノヴェンバー・ステップス」といったコンサート用の作品から感じ取るのはむずかしいかもしれませんが、彼が残した<うた>からははっきりと伝わってきます。彼の作品の中では傍流に位置するものでしょうが、武満を深く知るには欠かせないものだと思います。これらの<うた>はクラシック風の「歌曲」とよぶにはポップすぎるし、かといえポップス特有の“ずぶとさ”ともいえる力強さにはいささか欠けているのですが、だからこそ聴き込む程にそれぞれの愛着の形をもつことができる、いとおしい音楽なのです。
これらの<うた>の大半は彼がてがけた映画音楽の一部として作曲されたものです。80年代以降そこから12曲が作曲家自身の手で無伴奏の合唱作品として編曲されましたが、きちんとした伴奏がついているのは2曲しかありません。これは演奏者にとっては解釈の自由の余地が広いということになるので、これまでにいろんな試みをされたCDがリリースされています。このセレクトは私が手持ちのCDの中から、できるだけ様々なスタイルで武満の<うた>を味わってもらおうという意図で選曲しました。感想は人それぞれだと思うので多くは語りませんが、私自身は今回改めて何度もじっくり聴いてみて、ブライアン・ウィルソンの一部の曲に近いものを感じました(同意する方はほとんどいないと思うのですが・・・)。ビートルズについては何度も語っている武満ですが、『ペット・サウンズ』や「サーフズ・アップ」を耳にしたことはあるのでしょうか、聴いていたとしたらどんな感想を持っていたのでしょうか・・・。

曲目と初演時のデータ

1.小さな空

1962年に放送されたラジオ・ドラマ「ガン・キング」主題歌。歌詞も武満が手がけた。

2.翼

1982年に上演された演劇「ウイングス」劇中歌。上演時には市原悦子が歌った。これも歌詞は武満自身によるもの。

3.ぽつねん

1995年に月刊誌「ゴールド」による、谷川俊太郎が書き下ろした12編の詩に6人の作曲家が曲をつけるという企画に参加したもの。初演は生前親交があった小室等

4.うたうだけ

1958年作曲。作詞は谷川俊太郎。初演の詳細は不明。

5.恋のかくれんぼ

1961年の映画「斑女」(監督=中村登)のためにつくられたもの。映画で歌ったのはペギー葉山。作詞は谷川俊太郎

6.素晴らしい悪女

1963年の映画「素晴らしい悪女」(監督=恩地日出夫。原作は石原慎太郎)主題歌。主役の鹿内タカシによって歌われた。作詞は永田文夫

7.三月のうた

W.P.マッキヴァーンのサスペンス小説を映画化した1965年「最後の審判」(監督=堀川弘通)主題歌。後藤芳子によって歌われた。 作詞は谷川俊太郎

8.明日ハ晴レカナ、曇リカナ

黒澤明監督「乱」の音楽を担当した武満が、ロケ現場を視察した際にスタッフのために即興でつくった曲。晋友会合唱団の演奏によるCDで公表された。

9.○と△の歌

1961年の映画「不良少年」(監督=羽仁進)主題歌。主人公の少年が歌った。歌詞は武満自身によるもの。

10.小さな部屋で

1955年のラジオ番組「私の歌」のために作曲された。作詞は川路明。

11.死んだ男の残したものは

1965年4月に開催された「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために作曲。友竹正則が歌った。歌詞は谷川俊太郎

12.MI・YO・TA

武満の葬儀の際、弔辞を読んだ黛敏郎が口ずさんで披露したメロディーに谷川俊太郎が歌詞をつけたもの。題名は武満の仕事場があった長野県の御代田町からとられた。

13.ワルツ

1966年の映画「他人の顔」(監督=勅使河原宏、原作は安部公房)主題歌。ドイツ語の歌詞を岩淵達治がつけ、前田美波里が歌った。

14.見えないこども

1963年の映画「彼女と彼」(監督=羽仁進)主題歌。歌ったのは岸洋子。作詞は谷川俊太郎

15.雲に向かって起つ

1963年に放映された同名のテレビ・ドラマ主題歌。歌ったのは藤木孝。作詞は谷川俊太郎

16.昨日のしみ

3曲目「ぽつねん」と同じ企画で作曲されたもの。

17.燃える秋

1978年の映画「燃える秋」(監督=小林正樹、原作は五木寛之)主題歌。歌ったのはハイ・ファイ・セット。作詞は谷川俊太郎

18.雪

1963年の映画「白と黒」(監督=堀川弘通)主題歌。フランス語の歌詞は瀬木慎一によるもの。歌ったのは岸洋子

19.めぐり逢い

1968年の映画「めぐりあい」(監督=恩地日出夫)主題歌。作詞と歌は荒木一郎

20.さようなら

10曲目「小さな部屋で」と同様に、「私の歌」のために作曲された。作詞は秋山邦晴

21.島へ

1983年放映のTVドラマ「話すことはない」の挿入歌としてつくられたが使用されなかった曲。翌年の東京混声合唱団の演奏会で公表された。作詞は井沢満

演奏

1,9,21:ザ・タロー・シンガーズ(指揮/里井宏次)
2,11,17:石川セリ

武満徹:MI・YO・TA

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3,15:羽山晃生
武満徹:SONGS

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4,8,14:保多由子
武満徹SONGS見えないこども

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5,12:林美智子
地球はマルイぜ~武満徹:SONGS~

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6,13,18:ドミニク・ヴィス
武満をうたう

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7,10,20:福原久美
ソング・オブ・タケミツ

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16,19腰越満美
武満徹:SONGS

*1:本人はずっとジョセフィン・ベーカーだと思い込んでいたそうです