『マイルス・フロム・インディア』

マイルス・フロム・インディア

マイルス・フロム・インディア

コルトレーンなら分かるけど、なんでマイルス・デイヴィスでインドなの?」というのが店頭でこのアルバムを見たときの第一印象でした。マイルスとインド音楽の直接的なつながりは、私の記憶では『オン・ザ・コーナー』と『イン・コンサート』にインドの民族楽器を使用していたことくらい。それも民族音楽的要素の導入というよりも、コラージュ的な使い方をしていたように思われたからです。とはいえ、インド音楽とマイルス・ミュージックの出会いというコンセプトには興味を惹かれずにはいられませんでした。もっとも不安に思うところもかなりあったのですが・・・・。


結論から云いますと、この試みは一応成功しています。プロデューサーはマイルスの一連のコンプリート・ボックス物をてがけたボブ・ヘルデン。彼の下にジョン・マクラフリンチック・コリアウォレス・ルーニーロン・カーターマーカス・ミラージミー・コブなどのマイルスゆかりのミュージシャンが集い、インド人ミュージシャン達(その中には『オン・ザ・コーナー』に参加したバダル・ロイもいます)とマイルスの曲を演奏したアルバムで、CD2枚組の大作です。収録曲は「スパニッシュ・キー」に始まり、「オール・ブルース」「イフェ」「イン・ザ・サイレント・ウェイ」「ソー・ホワット」など50年代から80年代にかけてのマイルスの代表曲がずらりと並んでいます。インド陣の演奏は民族色をしっかり発揮しながらも違和感なく溶け込んでいてイロモノ感はありません。ウォレス・ルーニーのトランペットは本当にマイルスそっくりだし、「ソー・ホワット」でのチック・コリアの力演など聴きどころも多く、完成度の高い演奏が収録されています。


ただ、“マイルス”の名を冠したプロジェクトである以上、どうしても単なる完成度の高さ以上のものを求めてしまうのは私がマイルスを意識しすぎだからでしょうか?もし生前のマイルスが本腰を入れてインド音楽と向き合ったらもっと過激なものをつくったのではないか?という思いがぬぐいきれません。ただ決して悪いアルバムではない。買って損することはないですよ。なので「この試みは“一応”成功しています」と書いたのです。ウォレス・ルーニーのトランペットもそれ自体は充実したいい演奏。ただその音色やフレージングにマイルスを連想すればするほど、かえって「本当にマイルスがやったならこれだけでは済まないはずだ・・・」という気持ちがムクムクと湧いてきてしまうのです。マイルスの名や曲を使わずに全くのオリジナル曲だけで制作されていたなら、もっと素直に楽しめていたのでしょうが・・・。マイルスにそれほど思い入れの無い方の感想を聞いてみたいアルバムです。