ヒラリー・ハーン『シェーンベルグ&シベリウス/ヴァイオリン協奏曲』

シベリウス&シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲

シベリウス&シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲

つい最近来日したばかりのヒラリー・ハーンの新譜。彼女のアルバムはありきたりな名曲を集めたというのはひとつもなく、常に彼女の強い意志が感じられるものばかりですが、この新作もその例にもれない野心的な曲の組み合わせ。12音技法を駆使して作られたシェーンベルグと、後期ロマン派の流れを組んだ、民族的な色彩の濃いシベリウスのコンチェルト。どちらも20世紀前半に生み出された名曲です。ヒラリー・ハーンはこの2つをぶつけることによって、一見対照的なふたつの曲に共通して流れる20世紀的なものを探求しようとしたのかもしれません。実際このアルバムではシェーンベルグがロマン派的な情熱を孕んでいるかのように響いたり、シベリウス新ウィーン楽派のように峻厳に響く瞬間がしばしば訪れます。これは作曲家・吉松隆の言葉を借りて云うならばハーンの“冷たくも美しいオーラが出ている尋常でないヴァイオリン*1”だからこそ可能となった力技ではないでしょうか。特にシェーンベルグがいわゆる現代音楽的な難解さをふきとばすスリリングな演奏で圧倒されました。気が早いかもしれませんが、今年のベスト・アルバムの有力候補です。