11/10乙女音楽研究会〜ささやきナイト!〜@青い部屋

渋谷の「青い部屋」は戸川昌子がオーナーのシャンソン・バー。そこで行われたイベント「乙女音楽研究会」に行って来ました。理由はショック太郎さん(id:bluemarble)のユニット、blue marbleの初ライヴが行われるからです。ヴォーカルの大野方栄があまりライヴを好きでないために、なんと結成10年目にして初ライヴになったとのこと。あのデモ音源で聴くことができたポップ・ワールドがステージでどのように再現されるのか?また、ムーンライダーズ・ファンとしても生で大野方栄の歌が聴けるというのは見逃せません。普段ならお洒落そうな場所は縁遠いので及び腰になるところですが、ショック太郎さんからのお誘いを受けていそいそとやってきました。
このイベントにはblue marbleの他にフレネシとボサツノバが参加しました。フレネシは後日音源を持っていたことがわかったのですが、ボサツノバは全く未知の方。こちらもどんな音楽を聴かせてくれるのか、ワクワクしながら会場入り。JUN JUN COOKINGが提供する貝柱のホワイトシチューで冷えた身を温め開演を待っているといよいよ司会のエルナ・フェラガ〜モがステージに立ち、“ささやきナイト”の幕が開きました。


いきなりblue marbleの登場です。今宵は大野方栄のヴォーカルにショック太郎さんがピアノ、白戸美絵子さんがハモンド・オルガン、そしてサポートのベースというドラムレスのやや変則な編成。緻密に築かれたサウンドのデモ音源とは異なる、空間を生かしたアンサンブルで、大野のヴォーカルがその中を鳥のように自由に舞っているかのような印象を与えました。
まずはワルツ・ナンバーの「夜明け」からスタートって、おお、「ワルツ・フォー・デビー」じゃないですか!もちろんビル・エヴァンスの名曲です。そこに新たな歌詞をつけるという洒落た試みで、早くも趣向を凝らした展開になりました。2曲目はスキャット・ナンバー・・・それにしてもずいぶん器楽的な曲調です。大野の声が愛らしいからポップに聴こえるけど、これは相当な難曲じゃないの?と思っていたら、曲後のショック太郎さんのMCでなんとブラジルの奇才、エルメート・パスコアールの「ピポカ」のカヴァーであることが判明。びっくりして一人でのけぞってましたよ(笑)。


最初はやや硬さがあったように見えた大野のヴォーカルも(まあ、難しい曲でしたからねえ)続く「Drive」「cafe」辺りからぐっと伸びが出てきたように感じました。ショック太郎さんがピアノの内部奏法を披露した「Bluebird/Monster」が個人的には一番の聴きどころでした。タイトルといい歌の世界観といいこれはもう鈴木さえ子でしょ!と思ってステージ終了後尋ねてみたのですが、さすがにそれは考え過ぎだったみたいでしたね。

そして後半はデモ音源集からの曲が装いも新たに生まれ変わりました。この曲だけに加わったゲスト・パーカッショニストの絶妙なグルーヴがアンサンブルを引っ張っていった「懐かしのバイアーナ」、会場の雰囲気にぴったりだった「惑星」、そして最後は私が最も愛するblue marbleの曲「Steelband Trinidad」(これは鈴木さえ子meets細野晴臣的な名曲だと思います)。おそらくこの日の観客のほとんどが「なんでこれまでライヴをやらなかったの?」と不思議がったに違いないと思える素晴らしい演奏でした。大野のヴォーカルがムーンライダーズのアルバムで聴かれるものとほとんど変わらない瑞々しさに溢れていることにも感動。リンダ・ルイスのように奔放でブロッサム・ディアリーのように愛らしいんですから。もっともっと積極的に活動して欲しいものです。また、歌詞の良さにも改めて気づかされました。曲がポップ過ぎてついつい歌詞のメッセージ性に耳を傾けるのを忘れてしまう、という点で私はトッド・ラングレンを思い出したりしていました。


このステージではちょっとしたハプニングがありました。「ライヴに行きます」とblue marbleに連絡した方先着10名には白戸さんが最近夢中になっているという、手作り天然酵母のパンがもらえることになっていたのですが、なんとステージ上でその受け渡しがあったのです。まさかステージ中に名前を呼ばれることになるとは。この日2度目のびっくりでした(笑)。パンは翌朝おいしくいただきました。味が深い食べ応えのあるパンでした。この場を借りてお礼申し上げます。


さて、続いての登場はフレネシ。お人形さんのように華奢でキュートな方で、キャッチフレーズが“ささやきナルコプレシー”というだけあり、この日最も“ささやきナイト”のイベントにふさわしいウィスパー・ヴォーカルを披露してくれました。ショック太郎さんもピアノでサポート。前半はボサノヴァ調の曲が続いたのですが、彼女自身の弾くキーボードの音色がかなり独特で、お洒落な音楽にモンドな味つけを加えていたところが私好み。後半はリズムもどんどん多彩になり、またゲストとして迎えた男性ヴォーカルの繊細な声も彼女と相性が良く、こちらも大変楽しめました。CD-Rも買いましたよ。


トリはボサツノバ。お坊さんがボサノバをやるので“菩薩ノバ”というらしいです(笑)。いやあ、衝撃・・・いや、笑撃的なステージでした。いきなりお坊さんの衣装を身にまとい、ガット・ギターを抱えて更に口に薔薇の花をくわえて登場。そしてハミングでボサを軽く1曲。これで後がつまらなければただの出オチですが、続いていきなりなにやら聴き覚えのあるフレーズを弾きだして、なんとモーニング娘。LOVEマシーン」ボサノバ・ヴァージョン!この場でハロプロの曲が出てくるとは、本日3度目のびっくりでした(笑)。そしてこれがメリハリのあるパフォーマンスでカッコよかったんですよ。その後も「やぎさんゆうびん」など誰でも知っている唱歌をボサノバで料理。しかもそれだけでなく、曲の途中で不意にスティーヴィー・ワンダー「くよくよするなよ」を挿入するなど、意表をついた展開で惹き付けます。ジョアン・ジルベルトの「ビンボン」のタイトルを「びんぼう」と置き換えて歌ったときは初期の大滝詠一がボサにはまっていたら、こんなことやったかもしれないなあ、なんて思ったりしたり。ルックスのインパクトだけでなく、音楽的なアイディアの豊富さ、ギターのテクニックなども兼ね備えているのがすごかったです。


アンコールではボサツノバを中心に、フレネシやショック太郎さんも加わり1曲演奏。いきなりボサツノバが「パッパーラ、パララパーラララ」って歌い出します。なんと口三味線でスティーリー・ダン「ペグ」のイントロ。ところが歌になったとたん♪おさ〜るさ〜んだよ〜の「アイアイ」に。最後までやってくれるなあ。意外性と笑いに満ちた、一度みたら忘れられないステージでした。


という訳で、お目当てのblue marble以外も充分楽しむことが出来たお得な一夜でした。全体として会場の雰囲気も終始も温かく、とても居心地がいい空間でしたね。ショック太郎さん、お誘いありがとうございました。次のライブと新作アルバム期待して待っていますよ!


(追記)
ショック太郎さんの日記でもライブ・レポがスタートしました。
http://d.hatena.ne.jp/bluemarble/