ロレンス・ダレル『ジュスティーヌ』

アレクサンドリア四重奏 1 ジュスティーヌ

アレクサンドリア四重奏 1 ジュスティーヌ

ロレンス・ダレルの大作『アレキサンドリア四重奏』は、以前から気にはなっていたものの、なかなか手にとるまでには至らなかった作品ですが、改訳版が出たのを機に読んでみることにしました。アレキサンドリアを舞台に「ジュスティーヌ」「バルタザール」「マウントオリーブ」「クレア」の4巻からなる巨大な連作で、ようやく第1巻「ジュスティーヌ」を読了したところです。
主な登場人物は4人。語り手である作家の「ぼく(ダーリー)」、その恋人である踊り子のメリッサ、実業家のネッシムとその妻ジュスティーヌ。この4人の織り成す人間関係を軸にして、そこに神秘思想に詳しいバルタザールや、画家のクレアといった魅力的な脇役を配して話が進んでいきます。とはいっても決して時系列順に話が物語られるのではなく、ダーリーの心に思い浮かぶままにひとつひとつのエピソードがばらばらに綴られていくので、始めのうちはなかなか全体像がつかめません。さらに、登場人物の手記やジュスティーヌの前の恋人が書いた、彼女をモデルにした小説の一節などが交錯するなど、単なる一人称ではない重層的な語り口も大きな特徴です。最もこれらは20世紀小説ではよく見られた手法ですが、久しぶりにこの手の作品を読んだので、なかなか骨が折れました。とはいえ、興味を持続しながら読み通すことができたのは手法の面白さだけではなく、詩的で流麗な文章の魅力のおかげです。原文や旧訳にあたっていないので安易な断定はできませんが、原作の雰囲気をよく写し取った翻訳なのではないでしょうか。