ムーンライダーズ『最後の晩餐』

最後の晩餐

最後の晩餐

再発記念レビュー。活動休止から5年ぶりの復活となった、正に待望の作品でした。私がちょうど社会人になった年に発売されたのですが、「このアルバムが出るまではやめないでがんばろう」なんて思っていたこともあったなあ(笑)。
それはともかく、発売前は“ハウスに挑戦した”と喧伝されていたので期待半分、不安半分で耳を傾けたこの作品、蓋を開ければなんのことはない、ハウスに名を借りてハネるビートを導入した、ムーンライダーズ史上最もビートルズ度(中期)が高いアルバムとなりました。オーディオ・フレームの導入で産み出された低弦を強調したストリングス・サウンド、逆回転の音色を模したギター・ソロ、かけあいコーラスの試み、独特の低音の響きなど、そこかしこに当時慶一が熱心に読んでいたという『ビートルズレコーディングセッション』の影響がうかがえます。また、このアルバムが発表された91年当時は既にCDが中心となっていたのですが、アルバムの構成、収録時間は明らかにLPを意識したものですね。ここにもビートルズに対する彼らのこだわりが見られるように思うのですが、どうでしょうか。

60曲にもおよぶデモから選曲されたという収録曲はいずれも明確なメロディーをもつ佳曲ぞろい。そこにこれまでになかった苦味と怒りを忍ばせた歌詞が歌われるのが90年代以降の彼らの新境地。しかしサウンドと言葉が熱く拮抗するところから生まれるエネルギーは、80年代に彼らが生み出した名作群に決してひけをとるものではありません。個人的にうれしかったのは『ドントラ』ではあまり聴けなかったくじらのヴァイオリンがたっぷりとフィーチュアされていたことでした。ドラムは打ち込みなのですが、「プラトーの日々」でのリズムの重ね方やクラッピング・サウンドはまさにかしぶちならでは。「10時間」でハイハットを重ねて変態チックなうねりを生み出したのも実に「らしく」て頬がゆるんでしまいました。最後の生演奏による小品も今からみれば90年代後半以降のサウンドの傾向を予見しているように聴こえますね。ずっしりとした聴き応えとポップさがあやういところで均衡を保った、これもまたムーンライダーズを代表する名盤だと思います。若い人にこそ聴いて欲しい一枚。