4/30ムーンライダーズ「Vintage Moon Festival」@日比谷野外大音楽堂

4月のムーンライダーズは積極的にライヴを展開してきました。まずバンド内ユニットのみによるライヴを2回。次にポータブル・ロック、シネマを対バンに迎えて当時のレパートリーを中心にやった新宿ロフトでのライヴ。そして最後が昨日の日比谷野音です。私が見てきたのは昨日だけですが、こうしてみると、これら一連のライヴが全体として彼らのこれまでの歩みを振り返り、祝うものとしてまとまっているといえます。
その「回顧&祝祭」月間を締めくくった昨日のライヴ。多数のゲストが次々と登場した「ムーンライダーズ版ラスト・ワルツ」というべき内容でした。



最初に気になった点をいくつか。
・前半、昨年の恵比寿ガーデンホールでのライヴの時と同様かなりベースが大きい感じでした。ロック的な迫力を出すためかと思われますが、これだとフルートやフラット・マンドリンが聴こえにくくなってアンサンブルの繊細さが伝わりにくくなるんですね。幸いなことに中盤からかなり改善されたと思います。
・最後、ちょっとあっけなかったですね。後4,5曲くらいやるかと思っていました。まあ、ああいう終わり方も「らしい」ですし、音止めなどの事情もあると思うので仕方ないでしょう。
それ以外はお祭り気分で楽しむことが出来たコンサートでした。


さて、ここからがレポです(長いです)。
前座は“ムーンライダーズ一筋28年”のコピー・バンド、架空楽団。初めて見ることができました。大舞台で緊張していたと思いますが、聴こえてくるのは肩の力が抜けたほのぼのとしたサウンドでした。ヴァイオリン担当と、ピアニカ、マリンバ等を担当していた女性メンバーの演奏が特に良かったと思います。「Y.B.J」や「マニアの受難」といった曲を選んでくるところにこだわりを感じました。


架空楽団の最後の曲は「くれない埠頭」。さあ、もうすぐ本番だな。最初は何をやるんだろうか・・と架空楽団の方にはもうしわけないけど、早くも心はその先へ。・・・するとなんと演奏中にムーンライダーズのメンバー登場!楽器を交代してそのまま「くれない埠頭」を歌い続けます。このスタートは意表をつかれました。これは予想できるはずがない(笑)。
歌が続くなか、メンバーがひとり、またひとりとステージを去っていきます。やがて舞台にはくじらと慶一だけが残りました。最後は2人とも楽器を弾くのをやめ、歌声だけが野音に響いてゆく。彼ららしい、一筋縄ではいかない始まり方でした。


早くもゲストが登場します。まずはみうらじゅん。ギターとブルース・ハープのみのボブ・ディラン・スタイルでひとりステージに立ちます。まさかいきなりゲストだけになるとは。力強いダミ声で「大人の悩みに子供の涙」と「鬼火」を演奏しました。なかなかカッコよかったですよ。自らを「30周年マニア」と語ったMCも面白かった。


みうらじゅん退場後、再度メンバー登場。ドラムスはかしぶちと坂田学のツイン・ドラム体制です。そしてサポートにマエストロ・国吉静治のフルートという布陣。まずは「Frou Frou」、続いて「30」。「30」の出だしで、白井良明がギターを持ち替えるのが遅れたのですが、気づかずにくじらがイントロを吹き続け、慶一が「くじら、白井の準備を待て」と呼び止める一幕も。


ここからゲストが続きます。まずは青山陽一で「BTOF」。次に自前で青い旗を持ってきたサエキけんぞうが「青空のマリー」。そして「鈴木博文、フロントに出ます」と慶一がMCで博文を前に呼び出します。もちろんゲストで登場したのはカーネーション・直枝と大田。曲は期待通りの「ボクハナク」。大田はベースの代役を務めました。久々の直枝さんの生歌が聴けてうれしかった。このまま2人残って、博文コーナーもう1曲「工場と微笑」です。イントロのリフを何度も繰り返していたのはワザとなのか、歌に入り損ねたのか・・・どうも後者っぽい気がします(笑)*1


ここまで男のゲストが続きましたが、ステージがぱっと華やいで、この日最初の女性ゲスト、野宮真貴が出てきました。白と黒を基調にしたセンスの良いファッションは流石。ピチカート時代にもやっていた「マイ・ネーム・イズ・ジャック」を歌いました。


さあ、この日いちばん持ち時間を多く与えられた幸運なゲストの登場。ポカスカジャンです。まずは絵描き歌。「うーん、広い舞台でこれはマズカッタですねえ。後ろの方見えませんよね」とつかみは失敗(?)。スベッたか・・・いやいや、ここからが本領発揮。「ロッキーのテーマ 雅楽ヴァージョン」で芸達者のところを見せつけ、「おら東京さいくだ」ボサノヴァ・ヴァージョン、得意な下ネタで「津軽ボサ」とボサノヴァ2連発。コーラスもしっかり決めてくれるのがいいですね。そして、周囲に官公庁の立ち並ぶ日比谷で堂々とかました、「監獄ロック」ならぬ「韓国ロック」。エルヴィス・“キム”スリーがいろいろ政治的にヤバイねたを連発。爆笑しました。マンセー!最後はライダーズをバックに従えて、ミュージシャンとしての実力をしっかり見せた「大人の悩みに子供の涙」を披露してくれました。このときは慶一がドラムを担当。


一旦全員がはけ、無人となった舞台に曽我部恵一登場。良くも悪くも会場の空気を変えたポカスカジャンの後に出るのは大変だったと思いますが、ギターのストローク一発で観客を自分の流れに持っていきました。歌ったのは「スカンピン」。これが気持ちの入った名唱でした。この日のベストといってもいいと思います。小細工なしのギター弾き語りが、曲の良さと曽我部自身の良さを共に引き出していました。これはもう一度聴きたい。


続いて密かに楽しみにしていた(笑)、原田知世。かしぶちが紹介したのですが、噛んでしまったのはご愛嬌。知世ちゃんは出てきた瞬間から可愛さのオーラをふりまいていました。色、白い!ちっちゃい!いやあ〜、可愛いなあ。歌ったのは慶一がプロデュースしたアルバム『egg shell』から「空から降ってきた卵色のバカンス」。ちょっと渋すぎる選曲だったかも。何の曲かわからず、とまどっていたファンも多かったような。でも可愛いのでOKです。


知世ちゃんで和んで、ここからは濃いゲストの連発です。
まずはあがた森魚。力のこもった声で「大寒町」「赤色エレジー」を披露してくれました。ライダーズの演奏と最もしっくりなじんでいたように見えたのは流石。記憶に頼っているので、間違いがあると思いますが、「博文君、いい曲つくってくれて、ありがとう!岡田くん、「ウエディング・ソング」ありがとう!かしぶちくん「リラのホテル」ありがとう!これも「日本少年」だね。くじらくんもいつもいい演奏ありがとう!白井くんは『バンドネオンジャガー』でいい演奏ありがとう・・・こんどいい曲書いてね。・・・そして、マザーズ・オブ・インヴェンションをかけてボクを待っていてくれた慶一くん、ありがとう!」とメンバー全員に感謝のコメントを。これは彼らの絆の強さを実感させてくれる感動的な場面でした。


ステージにはくじらと慶一が残り、現れたゲストはエンケン。何をやるのかと思いきや、やおら始まったのは「塀の上で」。慶一が歌いだしたところで、上手く集中できなかったのか一旦ストップさせたエンケンですが、仕切りなおしの後はブルース・ハープとコーラスで慶一の歌を繊細にフォロー。慶一のヴォーカルだけでいえばこの曲がベストでした。
そして慶一とくじらも退場。エンケンが一人残ります。音出しに多少てまどったものの、エレキをかき鳴らしノイズの渦を爆音で会場に撒き散らして「ビートルズをぶっとばせ」を激演。ステージを降りて観客席にまでくりだしてエレキを弾きまくり、エンケン・ワールドを現出させていました。やっぱり強烈な個性です。


再び静寂が戻った会場。慶一が「30年前は同じステージのときは怖かった・・・今でも怖いか」と紹介したのはPANTA。歌ったのは「くれない埠頭」。1曲だけだったのがちょっと残念。でもPANTAが添えたハーモニーはこの数限りなく演奏されてきた曲に新しいものを加えていたと思います。
そしてまた慶一によるゲスト紹介「バンド仲間を紹介します・・・」。もちろん高橋幸宏です。ビートニクスやるか?と期待したのですが、選曲はちょっとびっくり「9月の海はクラゲの海」でした。幸宏自身の希望かな。これも残念ながらこの1曲だけでした。ゲスト・コーナーはここで終了。


いよいよコンサートも終盤戦。サポートに、現在慶一がアルバムをプロデュースしている女性デュオ、Ray of Lightが加わり「夢ギドラ85’」がスタート。すっかり陽が暮れた会場に良明の声が溶け込んでいきました。曲の後半で坂田学とかしぶちが短いソロを交換。やっとかしぶちさんも元気になったんだとほっとした瞬間でした。
さて、「夢ギドラ」終了後もRay of Lightがそのまま残っています。これは女声コーラスを活かした曲をやるに違いないと該当しそうな曲を頭の中で高速検索。いくつかヒットしたとき、果たして「週末の恋人」のイントロが流れてきてにんまり。岡田徹がハース・マルティネスっぽい声をがんばって出して歌っていました。
そしてかしぶちがステージ前に。曲は「バーレスク」!まさかこの曲がライヴで聴けるとは・・・。個人的に、ムーンライダーズのみではこの曲が今日のベストでした。
続いて「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」。これは予想通りでしたね。客席の女の子を物色している(?)慶一の様子が楽しかったです。


さあラストスパート。終わりに向って一気に押せ押せムードで攻めてきます。岡田、かしぶちもギターを持った「冷えたビールがないなんて」で客席のほとんどが立ち上がる。「Beatitude 」で大合唱。そして、ラストはゲストがステージに総登場して「Don't Trust Anyone Over 30」。おお、高橋幸宏かしぶち哲郎坂田学のトリプルドラムだ!ステージも客席も一緒になってタイトルを繰り返す。♪Don't trust anyone over「30」の部分を「40」「50」「60」とカウントアップしていったのが面白かった。これにて本編終了。


興奮の余韻がさめない会場。しばらく間をとってから6人が静かに現れました。くじら以外の5人は正面に直立不動。やがてクジラのヴァイオリンから「Acid Moonlight」の調べが流れ出しました。客席も水を打ったように静かになり、耳をじっと傾けています。そして演奏が終わり、メンバー退場。あれれ?
またしばらくすると、無人のステージから耳慣れない曲が流れてきました。まだデモっぽいラフな演奏とヴォーカルですが、良明のフォーク・ロック路線っぽいしみじみした曲です。歌詞は少年の頃を描いたものっぽい。けれどノスタルジアの描写が慶一でも博文でもない感じだなあ・・・と考えているうちに終了。ちなみにこの曲、糸井重里作詞・白井良明作曲の新曲「ゆうがたフレンド(公園にて)」だそうです。


まだアンコールを期待して待つ観客。もちろん私もそうです。しかし「本日の演奏は全て終了」のアナウンスが流れてきたのでした。ありゃー。なんだか「ポコポコお帰りください」とか言っていましたが、よく覚えていません。もっと聴きたかったけど、まあいいでしょう。これもまたムーンライダーズの味です(笑)。続きは秋の新作とツアーで堪能することとします。回顧&お祭りモードはこれにて終了。次は新たなステップを踏み出すムーンライダーズの勇姿と出会うことができるでしょう。その日をまた楽しみに待っています。

<セット・リスト>

1 くれない埠頭 (架空楽団から引継ぎ)
2 大人の悩みに子供の涙 (みうらじゅん
3 鬼火 (みうらじゅん
4 Frou Frou
5 30
6 BTOF (feat.青山陽一
7 青空のマリー (feat.サエキけんぞう
8 ボクハナク (feat.カーネーション直枝&大田)
9 工場と微笑 (feat.カーネーション直枝&大田)
10 My Name Is Jack (feat.野宮真貴
ポカスカジャン/絵描き歌など〜
11 大人の悩みに子供の涙 (feat.ポカスカジャン
12 スカンピン(曽我部恵一
13 空から降ってきた卵色のバカンス(feat.原田知世
14 大寒町 (feat.あがた森魚
15 赤色エレジー (feat.あがた森魚
16 塀の上で (feat.遠藤賢司
17 ビートルズをぶっとばせ (遠藤賢司
18 くれない埠頭 (feat.PANTA
19 9月の海はクラゲの海 (feat.高橋幸宏
20 夢ギドラ85’(以下コーラスで Ray of Lightが参加)
21 週末の恋人
22 バーレスク
23 マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン
24 冷えたビールがないなんて
25 Beatitude
26 Don't Trust Anyone Over 30 (全員)
(アンコール)
27 Acid Moonlight
28 ゆうがたフレンド(公園にて)(※曲がかかっただけで演奏はしていない)

*1:どうやら意図的だったようです。失礼しました