ジュリー・ティペッツ『サンセット・グロウ』

ブライアン・オーガー・アンド・ザ・トリニティを脱退したジュリー・ドリスコールは、キング・クリムゾンのアルバムに参加していたことでも知られるフリー・ジャズ・ピアニストのキース・ティペットと結婚し、ジュリー・ティペッツとなりました。
結婚後はしばらく音楽シーンから遠ざかっていたのですが、本作でカムバック。夫のキース・ティペットはもちろん、マーク・チャリグ、エルトン・ディーン、ニック・エヴァンスといったキース人脈によるブリティッシュ・ジャズの精鋭が参加した力作となりました。


もちろんトリニティ時代とは大幅に音楽性は変わり、フリー・ジャズ色が濃くなっています。しかし、難解さやカオティックなエネルギーを放射するような激しさはこのアルバムにはありません。穏やかで自由なアンサンブルによる各楽器の重なりと、伸びやかなジュリーのヴォーカルが、広がりのある大きな時空を描いて美しく溶け合っていく。私にはロバート・ワイアットの名作『ロック・ボトム』やキング・クリムゾンアイランズ』の、とりわけタイトル曲の世界を発展させたものに聴こえるのです。いくつかの曲にはフォークっぽさも見え隠れ。こういう音楽こそ“フリー・フォーク”と呼ぶのにふさわしいかもしれません。