ブリジット・セント・ジョン「ソングス・フォー・ジェントル・マン」

ソングス・フォー・ジェントル・マン(紙ジャケット仕様)

ソングス・フォー・ジェントル・マン(紙ジャケット仕様)

待望の紙ジャケ化。ジョン・ピールに見出されて69年にデビューした、ブリティッシュ・フィメール・フォーク・シンガーの2作目。プログレ・ファンにはケヴィン・エアーズやマイク・オールドフィールドのアルバムに参加していることで知られています。
一般的には次作「サンキュー・フォー・・・」が代表作とされており、デイヴ・マタックス、ピップ・パイル、リック・ケンプといった手練のミュージシャンが控えめながらもしっかりとサポートしている好盤にはちがいないのですが、私が一番惹かれたのは今回取り上げた2ndアルバムの方でした。


大きな特色としては現代音楽畑のロン・ギーシンがプロデュースしていること。牧歌的な曲に現代音楽的なオーケストラ・サウンドを加えたという点で、ケヴィン・エアーズ「ジョイ・オブ・ア・トイ」を連想させるところがあります。ロン・ギーシンといえばピンク・フロイド「原子心母」のオーケストラやSEを手がけたことで有名ですが、ここでも特異なオーケストラ・サウンドに腕を揮っております。そのため、しばしばオーヴァー・プロデュースと評されがちなのですが*1、どうしてどうして、やみくもに自分のサウンドを押し付けることはなく、ギター2本だけをバックにした「If You'd Been There」のような曲もあるように、引くべきときは引いてブリジットのヴォーカルをひきたてようとしています。フルートとファゴットが繊細なアンサンブルを奏でる「A Day A Way」なんて本当に美しい。ドノヴァンのカヴァーがあるのも個人的にポイント高いところです。


ブリジットのヴォーカルはやや低音のハスキー・ヴォイスで、歌い方もどちらかというとぶっきらぼう。曲もゆったりとしたものばかりでアシッドな感触があるのですが、なぜかあまり陰鬱にならず、ずっと聴いているとそこはかとなく可愛げがあるように感じられてくるのが不思議です。今ではNY在住のブリジット。曲づくりもずっと続けているとのことなので、新作も出して欲しいですね。

*1:ブリジット自身もロンのことを「発明好きで、自分がイメージした世界を完璧に仕上げないと気がすまない人。そのためには我を忘れて作業に没頭するし、私も、何度過労死すると思ったかわからないわ(笑)」とインタビューで語っております。