ヴァシュティ・バニアン「ルックアフタリング」

ルックアフタリング

ルックアフタリング

実に35年振りの2ndアルバム。
デビュー・アルバム「ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ」はかつてブリティッシュ・フォークの中でも幻の1枚とされてきたアルバムでした。それがここ数年CDとして再発されたことも*1手伝って、そのはかなげな魅力は徐々に多くの人に広まっていきました。近年はピアノ・マジックやアニマル・コレクティヴの作品に参加するなど積極的な活動を行っているという知らせはありましたが、それでも本人の新作が出るということはサプライズです。まして1stにも劣らない出来栄えとなっているのですから・・・。隣の人に歌って聴かせているようなあえかな歌声とつまびかれるギター、それにそっと寄り添うようなストリングスや木管の調べ、素敵なメロディーでも引っ張ることなくあっさりと終わってしまう感じなど、「ダイアモンド・デイ」にふんだんに詰め込まれている魅力がそのままこのアルバムにも感じられるのです。


実際に聴くまではかなり不安な気持ちでしたが、いざ耳にしてみると、実にいいタイミングで出たなと思わざるをえませんでした。ディヴェンドラ・バンハート、アダム・ピアス、マックス・リクターなど多彩なゲストが参加しているのですが、どのメンバーもヴァシュティの魅力をしっかり把握していて、出しゃばることがありません。彼等はいずれも音響派や、フォークトロニカなどに通じる、新しい感覚のアコースティック・サウンドを追求していた人たち。彼等がもつ感覚が、ヴァシュティが元々持っていた音楽性と高い親和性を持っていることがこのアルバムを聴くとはっきりとわかります。1stと変わらない魅力を持ちながら、なおかつ今の音楽としてしっかり成り立っていることがこのアルバムをより魅力的なものにしていて、今この時期に出たのが必然とすら思ってしまいます。
10年程前にムーンライダーズ

次の世紀には今よりも静かな音楽が流行って欲しい
(「愛はただ乱調にある」より)

と歌っていました。このアルバムがタワレコ新星堂に平積みされているのを見ましたが、もしかしたらそんな時代が実現しつつあるのかもしれません。

*1:最近紙ジャケにもなりました