大野松雄「大野松雄の音響世界3 はじまりの記憶」(asin:B0006SLDXO)

はじまりの記憶

鉄腕アトム」の効果音を制作したことで名高い音響作家、大野松雄の仕事を集めたアルバムが3枚同時発売になりました。今回はその中から3枚目の「はじまりの記憶」を取り上げます。これまでイベント等のために作品を創り続けてきた大野が、昨年はじめて自分のための創作として取り組んだ53分に渡る大作です。1930年生まれというから今年で75歳になる大野ですが、年齢などみじんも感じさせない繊細な感受性と大胆な構成力で組み上げられた音響作品で聴く者を圧倒します。


全体は7つのパートに分けられており、それぞれが


1 混沌と光=「はじまり」の「はじまり」…流転の「とき」を求めて…
2 無垢の誕生=「はじまり」の「ひろがり」…淡く、強く、ゆらめく光の吐息…
3 時空の旋律=「無」の向こうに脈動する「なにか」…かすかに、巨大に…
4 時空のかげろう=「とき」のゆらぎ、「空間」のきらめき…遥かな地平で応えあう…
5 記憶の<共鳴>=こだましゆらめく「時空」…交錯する光の粒子が、波が、その呼びかけが…
6 記憶の<共振>=ひびきあいかがやく「時空」…沸騰する「とき」が生まれ、そして消えて…
7 大循環圏=「おわり」は「はじまり」…流れさりおしよせる「とき」を求めて…


と名づけられているのですが、シュトックハウゼンに影響を受けただけあって安易な描写は一切なく、抽象度はかなり高い。しかし聴き手を拒むようなエゴイスティックな音楽では決してないところが非凡なところです。声や鳥のさえずりなどの具象音と金属的なシンセサイザーの音色、ホワイト・ノイズなどの素材がフィルターやエフェクト、リヴァーヴによって徹底的に加工され、もはや自然音と人工音の区別も判然としなくなったきらめく音の粒子群が空間を飛び交うさまは圧巻のひとこと。はっと息を飲むような美しい瞬間も数多く現れます。気が早いかもしれないけれど間違いなく今年のベスト・ディスクのひとつとなるでしょう。ライナーでは横川理彦による詳細な曲解説と、田中雄二による大野へのインタビューが掲載されており、鑑賞を助けてくれます。