ビョーク「メダラ」(ASIN:B0002ADEP6)

オリンピック開会式での雄姿も記憶に新しいビョーク。ほとんど人間の声だけでつくりあげた新作の登場です。彼女の音楽からわかりやすさ、という意味でのポップさが希薄になって久しくなるけれど、デビュー当時よりはるかに多くの人が今の彼女に注目し、次は何をやるのかかたずを飲んで見守っている。これが彼女のすごいところでしょう。ビョークの音楽は難しいかもしれないけれど、マニアックなものではありません。今回の新作もしかり。同様の試みならトッド・ラングレンが「アカペラ」でとっくにやっています。そしていわゆるポップさならトッドの方が断然ポップです。「アカペラ」は個人的にトッドのベスト3には必ず入れる程好きな作品で、傑作と思っているのですが、マニアックな香りを感じるのは、私にとってビョークではなくてトッドなんですね。


ビョークの音楽が孤高の位置にありながら、風通しの良さを感じさせるのは他者との交わりを恐れないせいでしょう。あれほどの声を持っているなら全部自分の声で埋め尽くすことを考えても不思議ではないのですが、このアルバムでも彼女は多様なゲストを召喚します。日本からはヒューマン・ビートボックスのDOKATAが参加して話題になりましたが、印象深いのはドスの効いた声を響かせるマイク・パットン、そしてロバート・ワイアットの参加!。彼が参加した「サブマリン」はワイアットの初期のソロやマッチング・モールを彷彿とさせる点があるのがうれしいところでした。


それにしても気になるのは、ビョークのブラック・ミュージックとの距離の置き方です。こういった試みでドゥ・ワップやゴスペルの影響をほとんど感じさせないのですから。かつてジャズ・アルバムを出したり(しかもそこでは「ルビー・ベイビー」をとりあげていました)していたんですけどね。そういったことを考えながら、聖歌隊のようなコーラスが登場する曲を聴いていると、つくづくビョークは「北の人」だなあと感じるのでありました。かように未だ刺激的なビョークの音楽。まだまだ目をはなせそうにありません。