フィリップ・ピケット with リチャード・トンプソン「ザ・ボーンズ・オブ・オール・メン」(ASIN:B000005Z1X)

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フィリップ・ピケットは、シェイクスピアのグローブ劇場の古楽の芸術監督やニュー・ロンドン・コンソートの芸術監督を務め、かつリコーダーやクルムホルンの奏者としても一流の人物。リチャード・トンプソンはもちろん元フェアポート・コンヴェンションで、イギリス最高のロック・ギタリストのひとり。プロデューサーがジョー・ボイドで、バックがサイモン・ニコル、デイヴ・マタックス、デイヴ・ペグという全盛期のフェアポート・コンヴェンションを支えた黄金のリズム隊。これで出来が悪い物ができたらどうかしてるという顔ぶれですが、期待にたがわぬ充実した作品となっています。

上記のミュージシャンに、中世フィドル奏者パヴロ・ベズノシウクを加えて録音された本作は、全ての曲が主に16世紀のダンス曲からなるもの。古楽をロック・バンドの編成で演奏する、リチャード・トンプソンの言葉を借りれば「中世音楽ヘヴィ・メタル版さ」という試みなのですが、一聴すればそのあまりの違和感のなさに驚くでしょう。このように演奏されるのが当然なのだ、ともつい思ってしまいそうな、躍動的で楽しさにあふれる音楽がこのアルバムには詰まっています。なるほどリチャード・トンプソンのエレキ・ギターが全編に渡って鳴り響いているのですが、もともとバグパイプフィドルのようなサウンドをエレキ・ギターで出そうとして独自の奏法を編み出した人ですから、ピケットのクルムホルンやパヴロのフィドルとの相性が抜群にいい。他のメンバーも60年代から伝統音楽のエレキ化に取り組んでいる面々だから、こうした音楽を支えるのはお手のものです。例え16世紀の古楽、フェアポート・コンヴェンションや「モリス・オン」などを全く知らない人にもアピールできる楽しさがあると思います。また、古楽は聴くけどリチャード・トンプソンは知らないという人もうならせることができるでしょうし、その逆もしかり。この音楽、見かけほど敷居は高くないですよ。ヴォーカル曲がないのがちょっと残念。