奥泉光「鳥類学者のファンタジア」(ISBN:408747688X)

鳥類学者

通勤読書。痛快な音楽SF小説。36歳の女性ジャズ・ピアニストが第2次世界大戦下のベルリンにタイム・スリップする話なのですが、オルフェウスの音階、天体オルガン、ロンギヌスの槍、光る猫など大道具、小道具とりまぜての大サービス。音楽ネタもたっぷりで飽きさせません。ややだらだらとした文体はもちろん意識的なもので(文体に無自覚な作家が「吾輩は猫である殺人事件」*1のような作品を書けるわけがない)、そのリズムに気持ちをシンクロできれば、700頁以上の大作ですが、一気に読み進めることができます。
主人公がピアノを演奏するシーンは、それぞれいずれも物語の重要なポイントとなっています。途中まで読んできて、ジャズピアニストが主人公の割にはクラシックネタが多いじゃないか、そもそもタイトルに「鳥類学者」とあるくせに・・・とお嘆きのジャズファンもご安心を。最後にとっておきのセッションが待っています。この部分だけでも、本書は日本最高のジャズ小説の座につく資格ありですね。

*1:作中、この作品と関連したネタが出てきます