ザ・レジデンツ「コマーシャル・アルバム」(ASIN:B00005IE5A)

全40曲に及ぶ音俳句。1曲1分のコンセプトで制作された80年発表の作品です。彼等特有のぺちゃっとしたサウンドで、人をくった曲が、歌ものやインスト取り混ぜて次々と出てきますが、1分間という枠のおかげで彼等の他のアルバムより親しみやすくなっています。シンセ・サウンドも大幅に導入しているので、たまにテクノ・ポップの名盤としてとらえられるときもあります。初めてレジデンツを聴こうという人にも最適な作品ではないでしょうか。彼等のねじれた個性はいささかも薄まってはいないのですが。ゲストには、彼等のファンにはおなじみのスネークフィンガーはもちろん、クリス・カトラーやフレッド・フリスといったヘンリー・カウ勢も参加。いかなる人脈でつながっているのかは謎です。
国内盤には湯浅学が曲目解説を書いています。彼はレジデンツについては幾つか文章を書いており、その気になればきちんとした解説もできる方なのですが、このアルバムでは、1曲につき1行のシュールな(?)文章(というか、詩ですね)を寄せてます。それだけ読むと何のことだかさっぱりわかりませんが、聴きながら読んでみると、どことなく通じるところが出てくるような気がするから不思議。以下、いくつか引用します。※( )内は曲名。


「失速していきながらゆるやかなマーチが葬送ではなく昇天を描出する人さらいの歌」(復活祭の女)


「迫りくる危機の予感を冷静に受容しながら台所でねずみを発見しチーズを分け合って食す」(秘密)


「毒消しゃいらんかねと変拍子で売り歩く薬屋は万能薬の不在を嘆きつつ攻撃に転じる予感」(薬売り)


腔腸動物化したレジデンツが増殖直前の細胞の心を合唱するとき空は無色透明である」(単純な歌)


「湿気を死因とする人生はハバネラ型に踊ったのかもしれぬとの問題提起探偵物語1分勝負」(湿り気)


「肥満はひとつのサスペンスである。シェイクとボレロの混在する部屋に二重顎のドラマ」(苦悩の男)