四方田犬彦「摩滅の賦」(ISBN:448081454X)

題名は硬い感じですが、魅力的なエッセイです。帯にもある通り、

何百年も人々が撫で擦り続けたため輪郭しか留めていないレリーフ、参詣人に触れられ黒光りする仏像、波に浸食された岩、口の中のドロップ…

といった「摩滅」についてふれている文章がならんでいます。時に思索的、時には幼少期の思い出をたどり、あるいはアンコール・ワットを訪れた時の印象を語るなど、多彩な視点で語ることができるのはエッセイならではの魅力。確かに「摩滅」というテーマは滅多に語られないものではありますが、「時の経過」や「物事の終わりの様相」を色濃く反映するものであるだけに、この本を読んだ後は、なぜこの主題があまり取り上げられなかったのか不思議な気分になりますね。画竜点睛を欠くのはレコードについての記述がないこと。SP、LPなんて格好の題材だと思うんですけどね〜。