ヴァシティ・バニヤン「ジャスト・アナザー・ダイヤモンド・デイ」(ASIN:B0000A126P)

ダイヤモンドデイ

今こそこうしてCD化されて私の手元にも届いていますが、それまではブリティッシュ・フォークの中でも屈指のレア・アイテム。一時は6ケタの値段がついていたというオソロシイ一枚だったそうです。
肝心の内容ですが、上のような俗っぽいネタで語るのが申し訳ない思いにさせる、清々しい音楽です。動物たちがこんにちはしている、ほのぼのとしたジャケットに魅力を感じた人は、決して期待を裏切られることはないでしょう。1970年作。プロデュースはフェアポート・コンヴェンションを手がけたジョー・ボイド。参加したミュージシャンの中には、フェアポートからサイモン・ニコルとデイヴ・スウォーブリックや、ニック・ドレイクのオーケストラ・アレンジを手がけたロバート・カービーといった、当時のブリティッシュ・フォーク・ロック・シーンの中心となっていた顔ぶれが集まっているのですが、彼らは決してでしゃばることはありません。本当に必要なときにそっと色を添える役割を果たしているのです。
基本はヴァシティ・バニヤンのギターと歌。その乾いた弦の音色と、3m以上離れた人には聴こえなくてもいいと思っているかのような、楚々としたヴォーカルが魅力です。曲もいい曲が揃っているのですが、どれもあっという間に終わってしまう欲の無さ。例えば冒頭を飾るタイトル曲。ギターのつまびきに続いて聴こえるリコーダーの調べにうっとりとして、ヴァシティの声でますます、「ああ、いいなあ・・・」とまったりしたとたんに終わっている、2分にも満たない小曲なのです。3曲目はキラキラ星のメロディーに歌詞を乗せて歌っていて、「この声でこんなの歌われちゃあ、たまらないなあ」と和んでいるうちに、気がついたら6曲目・・・となることもしばしば。イギリスには行ったことがないのですが、なんとなく穏やかな牧場の光景が浮かんでくるような素晴らしい音楽です。
こんな素敵なアルバムを残したにもかかわらず、ヴァシティはその後約30年間音楽の世界から遠ざかってしまいます。けれども最近はスコットランドで再び活動を始めたとのこと。もしかしたら、彼女の歌が再びアルバムという形をとって、私達の前に現れることもあるかもしれません。