ベン・ワット「ノース・マリン・ドライヴ」(ASIN:B000068WBO)

ノース・マリン・ドライヴ


エヴリシング・バット・ザ・ガールの魅力って「ちょっと背伸びをする」ところだと長年思っていて、「エデン」でのボサノヴァ、「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト」でのオーケストラ・サウンド、「アイドルワイルド」でのゴー・ゴー・ビートなどにそれを強く感じていました。基本的にギターの弾き語りがもっとも似つかわしい曲を書く二人がそっと音楽的な冒険を試みる。そこに垣間見える野心と不安に惹きつけられてきたのです。そうした冒険と経験を重ねるうちに、少しづつ彼らの音楽は円熟していき、あんなに生硬だったトレーシー・ソーンのヴォーカルもいつしか英国を代表する声にまでなりました。マッシヴ・アタックが彼女を起用したのがその象徴といえるでしょう。だけど、初期の彼らの「青さ」に惹かれていた私は、いつしか彼らの音楽からは遠ざかっていました。ドラムン・ベースを導入した「哀しみ色の街」には久々に「背伸び」を感じて愛聴したのですが、続く「テンペラメント」は一回耳を通しただけで売ってしまいました・・・。


現在の彼らが失ったものが今回取り上げたベン・ワットのソロには全てあります。若さゆえの青さ、ロバート・ワイアットと共演する*1という背伸びの姿勢、そしてなによりもベン自身のヴォーカル。彼のナイーヴなヴォーカルを私はトレーシー・ソーンより好むのですが、そんな私にとってこのアルバムはとても愛着があるものです。寒々しい空気感が伝わってくるジャケットとあいまって、冬の到来を感じると引っ張り出して耳を傾ける作品。

*1:正確には「ノース・マリン・ドライヴ」ではなく「サマー・イントゥ・ウインター」で共演しています。私が所有しているCDでは後半にそっくり収録されているので一つの作品として扱っています