デヴィッド・シルヴィアン「ブレミッシュ」(ASIN:B0000CBCBF)

ブレミッシュ


ジャパン時代の坂本龍一に始まり、ロバート・フリップ、ホルガー・シューカイなど常に師を求め、修行しているようなイメージがこの人にはありました。そして、いつのまにかデヴィッド・シルヴィアンは彼等と肩を並べる高みへ達していたのです。この新作はそのことをなによりも雄弁に物語っているといえるでしょう。「雄弁に」と書きましたが、ここで聴かれるサウンドは「必要最小限の」というところから更にひとつふたつ削ったような音で、もはやビートすら存在していないのですが。多くのゲストを迎えた前作「デッド・ビーズ・オン・ア・ケイク」とは対照的に、ほとんど全てのサウンドをシルヴィアン自身が手がけており、ゲスト・ミュージシャンはわずか2人。しかし、このミニマルなサウンドが鳴らすのは緊張感と深さのある、非常に豊かな音楽なのです。その大きな要因はやはりシルヴィアンのヴォーカル。特にこれまでと変わった歌い方をしているわけではありませんが、常にも増してダイレクトに訴えかけてきます。どんなに陰鬱なトーンで歌っていても彼の声には独特のゴージャスさがあり、それが深みを増す方向に作用しているように感じられます。この声がある限り彼の音楽には太い芯が通っていて、滅多なことではゆるがないであろうことが、今作の数少ないゲスト・ミュージシャンであるフリー・インプロヴィゼーションの大御所、デレク・ベイリーとの3曲の共演が証明しています。ベイリーの予測不能なプレイとシルヴィアンのヴォーカルが高次元で融けあう様は、今年の音楽的事件のひとつと言っても過言ではありません。その他の曲でもビートレスになった分、かえって聴き手はそこに流れる濃密な時間感覚を意識せずにはいられず、その世界に深く入り込むことになるのです。メジャーを離れ、インディーからのリリースですが、ここまで高密度の作品を送り出すとは思いませんでした。現在のデヴィッド・シルヴィアンのキャリアの頂点に位置する傑作だと思います。