フィリップ・グラス「ソングス・フロム・リキッド・デイズ」(ASIN:B00009WKY6)

もうすぐ来日するのに合わせて、80年代にグラスがCBSから出した作品がリイシューされました。もはやミニマル・ミュージックの枠ではくくれない存在となっているフィリップ・グラスですが、私個人としてはデヴィッド・ボウイの作品をモチーフにした「ロウ・シンフォニー」を聴いてずっこけたりしたこともあって、最近の彼に対する関心はあまりありません。そんな不謹慎なリスナーにとっては今回のリイシューは改めてグラスの作品に耳を傾けるきっかけを与えてくれる、うれしい企画であります。
さて、アルバム「プラチナム」でカヴァーを試みたマイク・オールドフィールドをはじめとして、数多くのポップ・ミュージシャンがミニマル期のグラスには影響を受けてきたわけですが、この86年作「ソングス・フロム・リキッド・デイズ」はグラスの方からポップ・ミュージックに積極的なアプローチを試みた作品です。作詞とヴォーカルにポップ・ミュージック側からゲストを起用しているのですが、その面子は作詞にポール・サイモンスザンヌ・ヴェガデヴィッド・バーンローリー・アンダーソン。ヴォーカルにバーナード・ファウラー、ジャニス・ペンダーヴィス、リンダ・ロシュタット、ローチェス、ダグラス・ペリーといった豪華な人選。都会人の心象風景を描こうとした意図が見えますね。演奏の方はマイケル・リーズマンが指揮するフィリップ・グラス・アンサンブルに数曲でクロノス・カルテットが参加するという布陣です。もともとポップ・ミュージックとの親和性が高いグラスの音楽なので、大変スムーズに聴けるヴォーカル・アルバムになっています。特に軽くしあげられている前半の曲の出来がよく、スザンヌ・ヴェガが詩をてがけた「ライトニング」「フリージング」が洒落た感触すらある佳曲。アルバムの構成としてはタイトルにもなった「リキッド・デイズ」〜「オープン・ザ・キングダム」がハイライトになるのでしょうが、こちらはやや消化不良気味になっています。もうちょっと演奏に繊細さが欲しいですね。ポップにもシリアスにもなりきれない中途半端な印象を感じました。「リキッド・デイズ」でのローチェスのコーラスはいいのですが・・・・。私は1〜3曲目をこれからは繰り返し聴くことになるでしょう。とはいえ、全体としたはコンパクトにまとまっていて、初心者にもとっつきやすいものになっているのではないでしょうか。