キャシー・バーベリアン「ビートルズ・アリアズ」(asin:B00067R1KO)

huraibou2005-05-05

数あるビートルズのカヴァー集の中にあって未だに特異な位置を占める奇作。キャシー・バーベリアンは、かつて「クラシック界のジャニス・ジョプリン」と呼ばれたことも個性的な歌手(メゾ・ソプラノ)であり、20世紀イタリアの作曲家、ルチアーノ・ベリオの妻でもありました。モンテヴェルディから世界の民謡、ジョン・ケージ、もちろん夫のべリオに至るまで幅広いレパートリーを持っていたキャシーが1967年にいち早くビートルズの曲を取り上げたのが本作です。元々は「リヴォルヴァー」のパロディ・ジャケでした。

今でこそクラシック界の人がビートルズ・ナンバーを取り上げるなんて珍しくもなんともないのですが、67年という時代にあってはそうとう奇異に映ったはず。キャシーの歌唱はアヴァンギャルドなことはやってませんが、「チケット・トゥ・ライド」でオペラっぽい節回しを披露したり、「ガール」では思いっきり低音で歌いだしたりと充分すぎるくらい個性的。バックのアレンジはチェンバロも加えたバロック風。フル・オーケストラではなく小編成の歯切れの良いサウンドになっているのでポップス・ファンでも親しみやすいと思います。残念ながら「イエスタデイ」や「ミッシェル」など今聴くとフツーに聴こえちゃうのもあるのですが、先に触れた2曲をはじめ「ヘルプ!」や「イエロー・サブマリン」など面白く聴ける曲が多いです。実際、原曲と歌唱法のギャップに笑っちゃうところもあるんですよね。キャシー本人もその辺りはどうやら自覚していたらしくて、というのは今回の復刻盤にはボーナス・トラックとして1980年と1982年におこなわれたリサイタルからの音源が収録されているのですが、そこではキャシーがオペラチックにこぶしを回す度に観客から笑い声が起きているし、キャシーの歌唱も明らかにアルバムより誇張した節回しになっているのですね。こういった遊び心がクラシック的なくさみをポップな魅力に変えているように思えます。モンドで片付けるにはもったいないチャーミングなアルバムといえるのではないでしょうか。これからも愛聴しそうです。