ブロッサム・ディアリー『ウィンチェスター・イン・アップル・ブロッサム・タイム』

Winchester in Apple Blossom Time

Winchester in Apple Blossom Time

ディスク・ガイドに取り上げられることの多いブロッサム・ディアリーのアルバムはたいていヴァーブ時代の作品になるけれど、そしてそれらの作品は確かにチャーミングで素敵なものばかりなんだけど、私にとって愛着があるのは彼女自身が立ち上げたダフォデイル・レーベルから発表された諸作品。中でも4作目にあたるこの1枚は別格です。
タイトル曲にロン・カーターが参加しているけれど、ほとんどの曲がブロッサム自身のピアノ弾き語りで歌われるゆったりしたバラードです。シンプルな伴奏ながら、エレピのようなまろやかで温かい音色がブロッサムの声にとてもよく合います。自作曲の出来が素晴らしいのも特筆すべきこと。とはいっても彼女の代表曲として知られるジョン・レノンに捧げた「ヘイ・ジョン」、ジョージィ・フェイムを取り上げた「スイート・ジョージィ・フェイム」、なんて素敵な名前なの・・・と歌いだす「ダスティ・スプリングフィールド」のような音楽ファンをにやりとさせるような曲は収録されていません。そのかわりタイトル曲や「タッチ・ザ・ハンド・オブ・ラヴ」といった地味だけど忘れがたい印象を残す名曲があります。それらを含めてこのアルバムでのブロッサム・ディアリーにはもはや“コケティッシュ”や“キュート”といった形容にはおさまらないスピリチュアルな輝きがあるのです。個人的にはジュディ・シルのアルバムや『ニルソン・シングス・ニューマン』と同じくらいの高みに達しているといってもいいくらい。これを聴いて私の中でブロッサム・ディアリーの音楽は本当にかけがえのないものとなりました。