8/16京急上大岡店将棋まつり

またまた行ってきました京急上大岡店将棋まつり。佐藤康光棋王が登場とあってはファンとして見逃すわけにはいきません。
まずは午後1時30分から、14日の小学生大会での優勝者と飛車落ちで対局。題して「小学生名人が佐藤棋王に挑む」です。小学生名人は仙台からやってきたそうですが、驚いたことに14日に大会で優勝した後、15日は東京観光はしないで長野の将棋まつりに行ってきたとか。そして憧れの佐藤棋王と対局するため、またこちらに戻ってきたというのです。解説の阿久津六段もその情熱に感心していました。対局前のインタビューではかなり緊張して言葉少なだった小学生名人ですが、いざ盤を前にすると落ち着いたもの。最後まで正座を崩さず、きちんとした姿勢を終始保っていたのには感心しました。将棋の内容は右四間に構えて攻めたてる力強い棋風。佐藤棋王にあこがれているというだけあって、剛直な攻め将棋です。対する佐藤棋王も堂々と迎えうち、あからさまに緩めているといった手は指しません。両者の棋風が合っているため、中盤以降は互いに受けよりも攻め優先。互いの陣に切り込み合う白熱した戦いになりました。最後は佐藤棋王が鮮やかな角のただ捨ての妙手を繰り出して勝利。解説の阿久津六段いわく「普通、駒落ちの上手はこんな鮮やかな手は指しませんけどね。それだけ小学生名人も強いということですよ」とのこと。予想以上に見応えのある将棋でした。

続いて佐藤棋王のサイン会。もちろん私も列に並びましたよ。色紙に「天衣無縫」と書いて貰い、握手もしてもらいました。それにしても棋士のサインというのは大変ですね。50〜60名くらいは並んでいたでしょうか。なかなか列が進まないと思っていたら、一枚一枚毛筆で書いていたのでびっくり。
その間メインステージでは地元横浜在住、瀬川四段によるミニ講座が行われていました。テーマは「馬鹿詰め将棋の魅力」。通常の詰め将棋は、攻める側は相手の玉を最短手数で詰ませようとし、守る側は最長手数となるよう攻めをかわしていくのですが、「馬鹿詰め」とは攻める側と守る側が協力しあって、普通は絶対詰まない形から、指定の手数で詰めあがるようにするというものです。なので、例えば「攻め側の駒が香車一枚、持ち駒なし」といった局面からでも5手詰めが成立したりするんです。一見簡単そうに見えますが、「最後はどんな形で詰めあがるのか」をしっかりとイメージしないと解けないんです(まあ普通の詰め将棋もそうですが)。奨励会員でも頭を悩ます問題もありましたが、それをぱっと早見えで解いちゃう会場のお客さんもいたりして盛り上がりました。

休む間もなく席上対局。近藤六段と瀬川四段の対局で、解説が佐藤棋王、聞き手が熊倉紫野 女流一級という顔ぶれですが、これは趣向をこらした「みんなで決めよっ!次の一手対局」となりました。中盤になったところで数回対局者の「次の一手」を当ててもらうのですが、候補手を佐藤棋王、熊倉女流一級、対局者のそれぞれが匿名で紙に書き、3人の意見が分かれたら会場の投票で手を決定するというものです。もちろん意見が割れた方が面白いのですが、プロとしてはあまりヘンテコな手を受け狙いで書くわけにはいかないのがムズカシイところ。果たして最初は3人とも同じ手を指定したのでお流れ(笑)。企画の成立が危ぶまれましたが、以降は無事(?)3人の意見が分かれて、会場に手の決定が委ねられました。最初の2回は対局者の指定した手が選ばれていたのでこともなきを得ましたが、3回目の近藤六段の指し手を決めるときに波乱が起こりました。選ばれたのは佐藤棋王の候補手で飛車を敵陣に打ちおろすものでしたが、選ばれたとたん佐藤棋王「あ、これ私が書いた手なんですけど、こうやっちゃうと香車が走られますね・・・まずいですね。さっきこうされると危ないと解説したばかりなのにうっかりしていました。近藤さんの足を引っ張っちゃいましたね」と焦りまくり(笑)。「しょうがないので、次は瀬川さんの手のところで問題を出してバランスをとりましょう」ということになり(笑)、数手進んだところで瀬川四段の手を選ぶことになりました。局面はやや瀬川四段の方が指しやすいか、といったところ。ここで候補にあがった手は、1)馬筋をじっと通して、遊んでいる馬の活用を図る。2)金を寄せて予め玉の逃げ道をつくっておく。3)果敢に桂馬を打ち込んで銀の両取りをかける。といったもの。1,2が受けで3は攻めの手です。やっぱり見ている方は攻めの手が見たいですよね。ということで選ばれたのは3の両取り。これは熊倉女流の候補手でした。「まあ、打ってみたいところですよね。でも瀬川さんは受けを考えていたのにいきなり攻めることになっちゃったので焦ってるんじゃないですか?」と佐藤棋王。はたして瀬川四段の表情を見ると若干動揺の色が(^^;)。ところが結果的にここから瀬川四段の攻めが続き、快勝しちゃいました。佐藤棋王と会場を味方につけたのが大きかったか(笑)。

そして本日のメインイベント、佐藤棋王対阿久津六段の席上対局です。解説は近藤六段(初級者にもわかりやすい、素晴らしい解説でした)、聞き手は斉田女流四段の振り飛車コンビ。「飛車を振ってくれたらうれしいけど、まあこの2人で居飛車の解説をするというのも面白いじゃないですか」と近藤六段が話していたら、後手番・阿久津六段が4手目に5筋の歩を突いたので会場から拍手。近藤六段もニコニコで「いや、阿久津君はよく出来た若手なんですよ〜」と大喜び。居飛車ゴキゲン中飛車の戦いとなりました。佐藤棋王居飛車穴熊に構えて持久戦狙いです。するとさっきまで阿久津六段をベタ誉めしていた近藤六段「あれ?穴熊に組ませたくないから中飛車をやってるのに、なぜあっさりと潜らせちゃったんですかね?」とやや不満気な様子です。しかし先手の佐藤棋王も手をつくるのが難しい。攻めようにも攻められないか?といったところで巧みな手順を駆使して角をさばくことに成功しました。近藤六段も「まだ形勢は互角ですが、今の手順を見られただけで、みなさん暑い中来ていただいた甲斐がありましたよ。見事ですね」と絶賛です。阿久津六段も佐藤棋王に手をつくらせまいと技を駆使するのですが、細いながらもなかなか切れない佐藤棋王の攻め。ついに阿久津六段の飛車を活用できない状態にして龍をつくり、やや棋王が優勢になったか・・・というところで阿久津六段が猛然と穴熊の玉頭に向って端攻めを開始しました。この将棋はここからが凄まじかったです。側面は金・銀・馬でガチガチの佐藤棋王穴熊。なので阿久津六段としては端から攻めるしかないのですが、自分の玉側でもある端攻めなので反動が怖い。しかし恐れていてはなにも出来ない、といわんばかりに激しく攻め立てます。真っ向からその攻めを迎えうつ佐藤棋王。ほとんどの駒が6筋より左に密集する大混戦となりました。見る見るうちに崩壊する佐藤棋王穴熊。対する阿久津六段の玉も危険な状態となっている壮絶な玉頭戦の展開です。これはいつどんな形で決着がつくのか?果てしなく続きそうな熱戦に近藤六段も「この将棋、まだまだ続きますよ。みなさんが下でお買い物をされて戻ってきてもまだ続いていると思います」「これ、普通の公式戦だったら深夜3時頃の局面ですね。すごいです」と感嘆することしきり。一手指す方が優勢に見える激しいねじり合いでしたが、最後は詰みを読みきった佐藤棋王が馬切りを敢行し、鮮やかな即詰みに討ち取りました。阿久津六段が負けを認めると、それまで息を呑んで戦いの成り行きを見つめていた観客から大きな拍手。170手を越える激闘でした。私もしばらくは興奮さめやらない状態になっていましたよ。夏休みの最後に素晴らしいものを見ることができました。両対局者に心から感謝したいと思います。